内容説明
まもなく七十歳になる一之瀬廉太郎は定年まで勤めあげた製菓会社で嘱託として働いている。家事や子育ては二歳下の妻杏子に任せきり、仕事一筋で生きてきた。ある日、妻から病院の付き添いを頼まれるがにべもなく断ってしまう。妻の頼みごとなど、四十二年の結婚生活で初めてだったのに。帰宅後、妻は末期がんで余命一年と宣告されたと告げる。呆然とする廉太郎に長女は「もうお母さんを解放してあげて」と泣きながら訴えるのだった―。余命一年を宣告された妻が、夫に遺す“最期のしごと”とは―。結婚四十二年、仕事一筋の男と家を守ってきた女。残された時間をどう生きるべきか…。
著者等紹介
坂井希久子[サカイキクコ]
1977年、和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒。2008年「虫のいどころ」で第88回オール讀物新人賞受賞。17年、『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』で第6回歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
529
妻・杏子がデキすぎ。妻の病が進行するにつれ、廉太郎がその〇ソ(失礼)みたいな言動をじょじょに改めてはいくのだが。実際にそんなことが可能なのかと、最後まで疑心暗鬼で読み終えた。にしてもあの世代は、本当にあんな感じなのか。暗澹たる思い。 2021/09/01
さてさて
297
『お父さんはずっと、お母さんの人生を搾取してきたんじゃない!』この作品には、家庭を全く顧みず、仕事に邁進する中に人生を生きて来た夫の廉太郎と、余命一年となってもそれでも夫を案じる妻・杏子の姿が細やかな描写の中に描かれていました。廉太郎の無神経極まりない言動、行動の数々に怒りが抑えられなくなってくるこの作品。そんな夫のことを最後の瞬間まで思い続ける妻の姿勢に魅せられるこの作品。『がん』は実は一番幸せな死に方とも言われ出した昨今、改めて『がん』という病の特殊性に思いを馳せることにもなった素晴らしい作品でした。2023/08/05
いつでも母さん
227
『あたりまえの日常は、いつか必ず終わるのだから。』わかっているのに喪してから気付くんだー『私が死んだら、この人は生きていけるでしょうか?』この帯に釣られ、余命1年の妻・杏子の心情に同化して読んだ。会社人間の夫の姿に始めは怒りすら覚えたが、少しずつ自立していく姿に、寄り添う姿に、娘との関わり方に、衰弱していく妻との別れの時に切なくて苦しくて悲しくて泣けた。そしての終章でガツンと涙が止まる。坂井さんにしてやられた感じだ。2019/09/30
おしゃべりメガネ
187
ある程度予想はしてましたけど、やっぱり思ってた以上に泣いてしまいました。まもなく70になる「廉太郎」はある日突然、妻「杏子」から病院の付き添いを頼まれますが、仕事を理由に断ってしまいます。後日、妻から余命一年と宣告され、そこから、これまで何ひとつ家庭を顧みなかった「廉太郎」の苦悩と苦難が始まります。とにかく亭主関白一貫で生きてきた主人公の妻や二人の娘に対する言動に度々、イライラし失望させられます。今更ではありますが、自分は連れ合いにどう接して、どう思われてるのか。自分一人になったトキなど考えさせられます。2019/10/19
utinopoti27
179
家事と育児は女の仕事、会社一筋でガムシャラに生きてきた団塊の世代・一之瀬廉太郎に、突如告げられた妻・杏子の末期癌。ただ呆然とする彼に、妻が遺そうとするものとは・・。長年家族を養ってきた自負にこだわり続け、封建的な考えを捨てきれない不器用な夫を、42年間黙って支え続けてきた杏子。本作はそんな典型的な『昭和の夫婦像』をモチーフにした、家族の人間ドラマだ。死期が迫る妻を目の前にして、少しづつ変わってゆく夫の心情が巧みに綴られてゆく。とにかく身につまされ、ひたすら切なく、最後は家族愛に涙する。オススメの一冊。2020/06/15