内容説明
都下郊外の大型商業施設において重大死傷事故が発生した。死者69名、負傷者116名、未だ原因を特定できず―多数の被害者、目撃者が招喚されるが、ことごとく食い違う証言。防犯ビデオに写っていたのは何か?異臭は?ぬいぐるみを引きずりながら歩く少女の存在は?そもそも、本当に事故なのか?Q&Aだけで進行する著者の真骨頂。
著者等紹介
恩田陸[オンダリク]
1964年宮城県生まれ。92年、『六番目の小夜子』でデビュー。2005年、「夜のピクニック」で吉川英治文学新人賞受賞、06年「ユージニア」で日本推理作家協会賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
375
思いがけぬ事件や事故に遭遇し深く傷ついた人は、その衝撃やトラウマで普通の日常を送れなくなる。いわば戦場の兵士と同様のPTSDを発症し、明日を信じられなくなって少しずつ心が壊れていくのだ。大型商業施設で起こった大量死傷事故の被害者や目撃者が、キレたり暴走したり決してやらなかったことに手を出してしまう有様をQ&A形式であぶり出していく。得体の知れぬ不安に苛まれ、自覚のないまま静かに狂っていく人の脆さ愚かさが何より恐ろしい。原因も犯人も不明なまま終わるため、読者も同じことが起こらないか周囲を見回してしまうのだ。2021/09/30
さてさて
365
12人の老若男女に順に質問と回答を繰り返して、どんどん真実に迫っていく凝った作りのこの作品。スーパーマーケット・Mで発生した事象について、作品冒頭からは予想もつかないまさかの結末に向けて非常に練り上げられたこの作品。そんな作品では、質問に回答する老若男女それぞれについて、我々が期待するキャラクターの個性を巧みにずらすことで不思議なギャップを生み出していました。12人の老若男女に垣間見える個性と、その回答から少しずつ真実へと近付いていく過程、そしてそれらが織りなす巧みな連鎖を存分に味わわせていただきました。2022/01/20
青乃108号
308
問いと答え。繰り返されるそのやり取りだけで物語を構成するという新機軸。とある大型ショッピングセンターで、ある日突然起きた群衆パニック。死傷者多数の大事故にも原因ははっきりせず、当初は火災、劇薬散布など囁かれるがいずれも痕跡見られず。複数登場する質問者と回答者によって、次第に現代社会の抱える闇があぶり出されて来るさまにはジワジワと来る怖さがある。2022/08/02
青葉麒麟
307
人間ってやっぱり白黒はっきりつけたがるって事を再度認識した。2011/07/16
風眠
248
『物語』というものを終わらせるためには、事件や謎を解決してほしいと読者は思うが、恩田陸は読者を置き去りにする作家だ。この物語にも何も「怖い」ものは出てこないのに、得体の知れない何かが読者を翻弄する。ある研究施設で、または真夜中のタクシーで、あるいは友人のマンションで、いろいろな場面で質問が繰り広げられていく。週末でにぎわうショッピングセンターでの大惨事、事件なのか事故なのかも分からない。ぬいぐるみを引きずった小さな女の子の謎、そして人の数だけある真実。様々な視点が交錯し、真実がうやむやになっていく物語。2012/11/07