内容説明
幸せな四人家族の長女として、何不自由なく育った弥生。ただ一つ欠けているのは、幼い頃の記憶。心の奥底に光る「真実」に導かれるようにして、おばのゆきのの家にやってきた。弥生には、なぜか昔からおばの気持ちがわかるのだった。そこで見つけた、泣きたいほどなつかしく、胸にせまる想い出の数々。十九歳の弥生の初夏の物語が始まった―。
著者等紹介
よしもとばなな[ヨシモトバナナ]
1964年東京都生まれ。「キッチン」で海燕新人賞を受け、デビュー。「TUGUMI―つぐみ」で山本周五郎賞、「不倫と南米」でドゥマゴ文学賞を受賞。著書は世界各国で訳書となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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黒瀬 木綿希(ゆうき)
127
再読。ばななさんの文章は不思議だ。特に回想シーン。なぜかと言うと浮かんでくる情景の四隅が白くぼやけて見えるから。それが幸福の絶頂期でもう二度と手に入らないからだろうか。 幸せな四人家族の長女として育った弥生と風変わりな音楽教師のおば・ゆきの。欠けている過去の記憶が呼び覚まされて浮かぶ情景は泣きたいほどに懐かしく、尊い。全ての登場人物を喰ってしまう個性を持ったゆきのが選ぶ道は、凡百の人間にとって首を傾げたくなるものばかり。そこが良い。今日も彼女は「雨だから休もう」などと言って再び布団へ猫のようにくるまるのだ2020/10/01
naoっぴ
81
どこか夢のようでファンタジーのようで。現実感が薄くて儚げで、まるで外界から遮断されたような雰囲気は著者ならでは。小さい頃から一緒に育った弟に恋することも、おばの奏でるピアノの音色も、軽井沢でのふたりだけの時間も、なにもかもがキラキラと透明で、夢の中の出来事のようだ。失われたものを探し続ける弥生。寂しくて繊細なエピソードが柔らかい言葉のベールに包まれて、ひとつ現れては流れていく。読み終えたあとは夢から覚めたような気分になった。2020/04/24
masa
45
自分探しというのは少年少女にとっての最大のテーマだ。実際には物語のようなわかりやすいルーツのようなものなんてなくて、それでも、生まれてきた以上は何者かであるべきなのではないかという思い込みで、探し、迷い、むしろ見失う。僕は脳と心が別々の存在で、脳が生きるために心の邪魔をしていることに気がつくまでに随分と時間がかかった。心こそが僕自身で、だから、正しくないことを求めてしまうときに葛藤する。僕にとっての自分探しは旅ではなく、自分の部屋の中でこうして思ってもみなかったことを心の奥底から引きずり出して書くことだ。2024/02/17
aika
43
哀しい予感、というタイトルとは裏腹に、読後には新たな人生の一歩を踏み出す弥生ちゃんの希望みたいなものに溢れていて、どことなくほんわかした気分になりました。悲しい出来事によりすべてを失ったのではない、何かを得て前に進むんだ、そんな気持ちにさせてくれます。弟の哲生くんと交わす言葉のひとつひとつにドキドキしました。おばのゆきのさん、不思議で周囲を振り回してばかりだけれど、誰よりも哀しさでいっぱいなんだなあって思うと、切なくなります。最後の弥生ちゃんとゆきのさんのシーン、じんわりと胸に沁みます。2016/03/08
水色系
27
なんというか、小説というより詩とか写真集とか絵画とか、印象で「なんでかは説明するのがむずかしいが好き」というようなカテゴリに入る本だ(個人の感想です)。哀しい予感。おばと弟を失う予感が、姉と恋人との未来に繋がって、静かでありそれでいて芯のある物語であった。2023/06/22