内容説明
天明二年。江戸は大地震に見舞われた。まだ騒然とした空気が残る中、料理屋の跡取り善四郎は御金御用商・水野家で、料理に関係のない奉公生活を続けている。家人たちの様子から、善四郎はうっすらと自らの出生の秘密を感じ取っていた。困っている者を見ると放っておけなくなる性分から関わった貧乏旗本の娘・千満との初恋は実らず、傷心を抱えながら赴いた評判の料理屋で偶然身分の高そうな若い侍と知り合う。これが姫路藩主の次男、後の酒井抱一との出会いであった―。亀田鵬斎、大田南畝、酒井抱一、谷文晁―そうそうたる時代の寵児たちとの華やかな交遊、そして、想像をかき立てられる江戸料理の数々―相次ぐ天災と混乱の時代に、料理への情熱と突出した才覚で、一料理屋を将軍家のお成りを仰ぐまでにした男の一代記。
著者等紹介
松井今朝子[マツイケサコ]
1953年京都生まれ。割烹「川上」の長女として祇園に育つ。早稲田大学大学院文学研究科演劇学修士課程修了後、松竹株式会社入社。その後フリーとして歌舞伎の脚色・演出・評論を手がける。97年『東洲しゃらくさし』(幻冬舎文庫)で作家デビュー。同年『仲蔵狂乱』(講談社文庫)で第8回時代小説大賞を受賞。2007年『吉原手引草』(幻冬舎文庫)で第137回直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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万葉語り
52
江戸の名店「八百善」を盛り立てた栗田善四郎の一代記。太田蜀山人、渡辺崋山、抱一上人など多くの文化人との出会いと、本人の骨身を惜しまない労苦が、八百屋から精進料理屋になった店を天下一の名店に押し上げていく様子が、入念な下調べをもとに書かれていてレポートを読んでいるかのようだった。皆さんの感想にもあるが、外面に引き換え女房を蔑ろにしているところが気に入らなかったが、読みごたえはあった。2017-132017/01/21
ミエル
50
時代小説ではおなじみの江戸料理の老舗 八百善物語。四代目善四郎の成功譚なので、思っていたよりも料理描写が少なく経営手腕がメインの伝記のよう。実在の人物とのことでエキセントリックなエピソードもないし、どちらかと言えば淡々と進む展開、悪くないけどスピード感はない。だからと言って抒情的でもなく、うーん… 著者の吉原ものの煌びやかさを期待してはいけない。ただ、抱一、文晁、太田南畝を中心とした多くの絵師、文人の登場には胸が躍る。江戸のサロンだから当然だけどね。2017/11/20
星落秋風五丈原
42
有名な料理屋「八百善」を盛りたてた栗山善四郎の生涯。2016/10/19
なにょう
38
題材は良いと思う。ただ、ところどころ説明書きのようなところがあって読むのがしんどいところがあった。特に、主人公の転機となった二度の上方漫遊が端折られているのは解せない。★天明年間は天候不順で食べるのに難儀したこと。白河候定信の堅物さに庶民がうんざりしたこと。更に時代は下り、将軍位40年の大功をもって将軍家斉は太政大臣となる。まさに江戸時代の円熟期。明の万暦帝の時代もかようであったか。2017/02/25
ジュール リブレ
34
あの、高級料亭で知られた八百善を舞台にした時代小説。 一代でこの大店を築き上げた善兵衛の一代記を、飽きない味付けで読ませてくれる。精進料理から始まって、魚河岸の顔になるよう通い詰め、粋を通した男の、それでも妻に頭が上がらない様子など、人間模様もちらほらと。堪能させていただきました。2016/12/13