内容説明
山尾悠子が二十代に執筆した短編小説の中から、『遠近法』『夢の棲む街』『月齢』『眠れる美女』等、みずから選んだ11の傑作を収録。巻末には書き下ろしの「自作解説」を併録した、山尾ワールド入門への最良最高の一冊。付録・単行本初収録エッセイ4編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
市太郎
62
初期作品集。集成の短縮版的なポジション。なら文庫だろうと普通の作家なら思う所だが、彼女の小説には堂々とした単行本で素敵な装丁が似合う。出版側も採算がとれると判断したのだろう。つくづく希有な作家だ。幻想というよりSF・ファンタジーとして見られていた初期作品。この頃からその世界観は秀逸で「夢の棲む街」「ムーンゲイト」「遠近法」などの硬質でありながら幻惑的な世界に酔うだろう。イメージを追うような彼女の文学スタイルは獄門台に置かれた美味美麗の果実だ。意味不明意図不明で畏怖してしまうがいつまでも味わいたいと思う。2014/06/19
藤月はな(灯れ松明の火)
31
今年は巳年なのでウロボロスの蛇をモチーフにした作品のあるこの作品集を再読。天使や羽など美化されるものが人々にとって迷惑を掛けるグロテスクなものとされているのに侏儒が終わる世界で唯一、天上に挙げられるものとされている。まさに「綺麗は汚い、汚いは綺麗」を体現するような作品集。「月蝕」は「夢の通い路」という平安時代からの夢の力の概念を表す。故に山尾悠子作品は夢と現、醜悪と綺麗の二分律は成立せず、常に移ろう。2013/01/02
マウリツィウス
29
【『遠近法』/パースペクティヴ】ボルヘス『バベルの図書館』を再現化した山尾悠子作品集成でもあるがその意味を解体、ジェイムズ・ジョイスの再構成する『フィネガンズ・ウェイク』をも吸収要素化した。国文学腐敗批判論を内包化-その西欧文明との集合意識化は《深層心理学》を絶望へと帰した。「天使」-つまり神学上のシンボルを形而上異形化することでの方法論は見事だろう。実際の「天使的」意味はスコラ的ではなくエノク書的、潜在化された世界像は「山尾悠子」の名を刻み込んだ。ボルヘスの無意識化引用ではなく《コンテクスト経緯》習得。2013/09/27
藤月はな(灯れ松明の火)
24
関東へ行った時に大型書店で売られていたので母におねだりして購入しました。硬質で静謐でありながらもどこかに残酷さや底冷えするようなグロテスクを漂わせている作品にただただ、酔いしれるしかなかったです。2010/12/03
ドン•マルロー
22
みた夢をできるだけ鮮明に記録しようとしても限界がある。無意識と非論理によって醸成された世界を筋道だてて言語化することの矛盾。凡庸な比喩だが、それこそ海の底で蜃気楼のように揺らめく海藻を、そのままの状態でひきあげようとするようなものだろう。陸(現実)の上で、われわれが目撃できるのは、あの幻想的な印象のすっかり損なわれた、死体のようにぐったりとしたまったく別様の姿だけだ。本作において、山尾悠子氏はその巨大な矛盾と真摯に向き合ったような印象を受ける。”夢の棲む街”はもちろんその筆頭株なのだが、京都という現実⇨2016/02/09