内容説明
スペイン悪漢小説の代表作2作、「ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯」(作者不詳)と「ぺてん師ドン・パブロスの生涯」(フランシスコ・デ・ケベード)を待望の新訳で収録。パブロスは自分の賤しい出自を恥じ奸計を弄して貴族社会への参入を企てるが…。ボルヘスをして「一人の人間というよりは厖大で複雑な一個の文学」と言わしめたケベードが、既存のテーマや素材を極限にまで誇張・歪曲し、言葉遊びや奇想にみちた濃厚な文体で、非現実的な言語の世界を構築した傑作「ぺてん師ドン・パブロスの生涯」。ピカレスク小説の嚆矢「ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あかふく
3
ピカレスク小説において重要な要素は様々あるが、とにかく旅をしないことには始まらない。そして当時旅は褒められた行為ではなく、許可なく歩いているだけで問題的な行為と見なされた。その罪性と関わる形で、ピカレスク小説の主人公は「根なし草」だ。両親や家系を捨てて彼らは旅する。それを諷刺に転じたところがある意味で強みになっているのだろう。その「根なし草」は物語内の人物事物にも与えられ、「お前は誰なのか」「それは何なのか」という問いによって偽名、身分詐称、見た目通りではない事物が暴かれていく。「影」も重要だ。2013/11/19