内容説明
6月のある朝、ダロウェイ夫人はその夜のパーティのために花を買いに出かける。陽光降り注ぐロンドンの町を歩くとき、そして突然訪ねてきた昔の恋人と話すとき、思いは現在と過去を行き来する。生の喜びとそれを見つめる主人公の意識が瑞々しい言葉となって流れる画期的新訳。
著者等紹介
ウルフ,バージニア[ウルフ,バージニア][Woolf,Virginia]
1882‐1941。イギリスの小説家、評論家。ロンドンに生まれ、文芸評論家の父や、一家を訪れる著名な文化人の影響を受けて育つ。20代初めに、「ブルームズベリー・グループ」に参加、芸術や社会への鋭い視点を磨く。1925年に『ダロウェイ夫人』を発表。斬新な手法で人間の心理を深く追求し、高く評価される。その他の代表作に『灯台へ』『波』など。文芸・社会評論でも活躍。1941年、自宅近くの川で入水
土屋政雄[ツチヤマサオ]
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
129
そう、彼女はダロウェイ夫人と呼ばれる社会的地位にあるけれど、彼ら…ピーター、サリーにとってはクラリッサ。ずーっと前から知っているのだから。大戦も終わった6月の朝の光のように、クラリッサは輝いている。52才でも、彼らが覚えている彼女はまだ少女だもの。でも、公園にいるセプティマスには輝きは一切ない。まだ30年ほどしか生きていないのに。隣に若い妻もいるのに。妻の絶望や苦悩が読者にまとわりつく。光を集めるのはクラリッサばかり?そんなのズルくないかしら。2016/01/27
mukimi
109
今現在の美しさへの感動を爆発させる描写、順番にあちらこちらへ揺れる登場人物の意識の内側から世界を眺める心理描写の巧みさにただ圧倒され読了した。しかしあとがきで筆者は心の苦しみを負い未遂を繰り返し遂には自殺したということ、自らの分身として登場人物を描いたということ、また、鮮やかな生の歓喜が逆説的に第一次世界大戦や彼女の病や苦しみを暗示しているとの解釈を知り、人間の生の美しさと哀しみを想い胸が詰まる。本書が難解とされる由を知る。本書読了ではバージニアウルフという女性の心の迷宮の入口に立ったに過ぎないのだろう。2022/11/06
buchipanda3
92
「人はみな愚か者、なぜこれほど生を愛し、生を見つめたがるのか」。その言葉通り、様々な人たちの内面に溢れる"生"の姿、心に潜む意識の交錯が流麗に描かれ、それに身を委ねる読書は面白味に満ちていた。手堅い結婚をしたダロウェイ夫人。妻や母親と見られるが今ある自分は透明と化した。それでも大戦後の生への空虚が残る中、俗物的と思われようが純粋に今を生き一瞬を感じることを促す。彼女と同じく自身の魂を見失った帰還兵の青年が選んだ道を尊びながら、クラリッサは老い先も自己と日々の喜びを見出した。それはかつての彼女自身の魂の姿。2024/10/02
優希
91
とりとめのない意識の流れが淡々と描写されているのに面白いです。過去と現在を行き来する思いはメリーゴーランドのように巡っていると言えるでしょう。ダロウェイ夫人が花を買いに行き、昔の恋人が尋ねて来る、それだけなのに色々な物語が交錯していきます。次々と語られる物語に刺激はありませんが、瑞々しいと感じました。流されていきながらも時折不思議な感覚をおぼえます。平凡な1日に多くの人や考えがすれ違うのが独特の効果を持つ作品だと思いました。2015/09/05
扉のこちら側
77
初読。2015年1029冊め。【55/G1000】ジョイスの「ユリシーズ」を思わせる、登場人物たちのとりとめのない「意識の流れ」。訳がそうさせるのが原文でもそうなのか、とにかくとうとうと流されて、そしてハッとさせられて。解説にあるように、対立的な要素が複雑に絡み合っていることに目をくらまされる。ダロウェイ夫人の対を成すセプティマス、大英帝国社会への皮肉。最後の最後はなぜ「昔の恋人のピーター」で終わったのだろうか。2015/08/30