内容説明
北アルプスM岳山荘の一人娘・幸子と、毎年夏に登ってくる医大生の竹下は秘かに思いをよせ合っていた。やがて医者となった竹下に有名大病院院長の令嬢との縁談が決まる。だが、竹下は幸子に何も言わずに他の女性と結婚することに抵抗を覚える。別れを告げるために、もう一度山荘に登った竹下に幸子は―?経済成長のもと爛熟する人間の業を描く表題作など七編。
著者等紹介
森村誠一[モリムラセイイチ]
1933年埼玉県熊谷市生まれ。青山学院大学卒。ホテルマンを経て、作家となる。’69年『高層の死角』で第15回江戸川乱歩賞、’73年『腐蝕の構造』で第26回日本推理作家協会賞を受賞。2003年には第7回日本ミステリー文学大賞を受賞した。ミステリーを中心に、歴史小説、ノンフィクションなど、多岐にわたる分野で活躍。その著作は、370冊を超え、近年は、創始した「写真俳句」も話題を呼んでいる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yamakujira
5
1972~83年に発表された短編を再編して2011年に発行した短編集。山小屋の娘と想いあう登山客の青年が失踪する表題作と、猛吹雪に閉じこめられたベテランアルピニストと大学登山部の確執を隠す「堕ちた山脈」を目当てに購入。他に、サラリーマンの悲哀を感じる「虫の土葬」、ホステスの探偵ごっこ「魚葬」、クズは老いてもクズと知る「燃えつきた蠟燭」、悪鬼が子供の仮面を被った「魔少年」、ボクサーの悪事をあばく「死海の廃船」を収録。人間の醜い魔性を晒しながら、それぞれの時代感も味わえておもしろかった。 (★★★☆☆)2021/07/06
S.S.
1
全編を通して、「因果」が描かれている。この短編集は完全犯罪や不可能犯罪ではなく、我々の身近に存在する罪悪を扱っている。舞台は北アルプスやリング上など、その差こそあれ根本に存在する憎悪や嫉妬はどのような場所でもどのような場面でも通じる。そういった意味で森村作品の普遍性を感じた。2020/12/15