内容説明
漱石は「不可思議」に人間の心の闇を映し出し、太宰は「自業自得」に恋の女神の傲慢さを凝縮した。鴎外は「危急存亡」によって『三国志』の英雄と響き合い、芥川は「人面獣心」によって『列子』の人間観と結びつく。近代日本文学における文章の名手たちは、どの場面で、どのように四字熟語を使ったのか―。小説で使われた四字熟語にスポットを当てる新しい試み。
目次
第1章 日本語としての四字熟語(「連戦連勝」と時代の空気―司馬遼太郎『坂の上の雲』;「自由自在」と満たされぬ想い―江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』 ほか)
第2章 四字熟語で立ち止まる(「悪事千里」と世間の眼―樋口一葉『大つごもり』;「不可思議」と苦しき戦い―夏目漱石『こころ』 ほか)
第3章 四字熟語を使う作家、使わぬ作家(「電光石火」と人間のさだめ―北杜夫『楡家の人びと』;「旧態依然」と大正モダンガール―有吉佐和子『紀ノ川』 ほか)
第4章 二重映しの物語(「危急存亡」と明治の青年―森鴎外『舞姫』;「青山流水」と若き日の放蕩―永井荷風『あめりか物語』 ほか)
著者等紹介
円満字二郎[エンマンジジロウ]
1967年兵庫県生まれ。大学卒業後、出版社で国語教科書や漢和辞典などの担当編集者として働く(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ま
13
漢和辞典の編纂に携わった著者が、日本の近代文学に使用された四字熟語を切り口に考察を加えたもの。著者からすれば「この場面でこの四字熟語?」と一見違和感を覚える用法から、時代背景や登場人物の隠された心情を読み解いて辻褄を合わせていくさまはなんだか弁証法的で感心した。いろんな解釈をさせてくれる懐の深さが名作の名作たる所以とのこと。タイトルから想像される内容とは違ったが楽しめました。2021/05/08
maito/まいと
7
四字熟語の意味のみを追いかけるのではなく、前後の文脈や熟語本来の由来など、様々な角度から言葉の意味を探ることで、新たな世界の広がりを探求した1冊。解釈に「ん?」となったところもありますが、違った観点に気付かせてもらったことで、熟語に対する見方や使い方が広がること間違いなし。物事の捉え方のアプローチ法としても、非常に参考になります。何気なく使っていた熟語を見直すいい機会になりますよ♪2010/09/08
ばなな@猫行方不明で傷心
1
タイトルからは予想できない面白い切り口でした。この四字熟語はこの作品でこのように使われていてこのように〜と、挙げられていて、ついついそちらも読みたくなる(*⁰▿⁰*) ぜひ続編を出してほしい一冊。2022/03/19
旅猫
1
漢字検定でいつも四字熟語は平均点以下なのですが、こうした切り口での読み方は面白い。2009/06/12
砂
1
四字熟語という切り口からいくつかの有名小説を考察した本。「海と毒薬」は読んだときあまりよくわからなかったが、この本に出てくる考察からより深い意味を受け取れるようになった。2014/01/08