内容説明
はじめ“稲妻小路”の光の中に姿を現したその猫は、隣家の飼猫となった後、庭を通ってわが家を訪れるようになる。いとおしく愛くるしい小さな訪問客との交情。しかし別れは突然、理不尽な形で訪れる。崩壊しつつある世界の片隅での小さな命との出会いと別れを描きつくして木山捷平文学賞を受賞し、フランスでも大好評の傑作小説。
著者等紹介
平出隆[ヒライデタカシ]
1950年北九州市生まれ。一橋大学卒。詩人、作家、多摩美術大学教授。詩の中から新しい散文を追究し、『左手日記例言』(読売文学賞)や『伊良子清白』(芸術選奨、藤村記念歴程賞)などを刊行。2008年に全訳された詩集『胡桃の戦意のために』(芸術選奨新人賞)は全米で年間最良の海外文学書としてBest Translated Awardを受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
303
【月例(^ΦωΦ^) 猫と読書(^ΦωΦ^) (8月22日)】【英訳にて】細い路地にひっそりたたずまうお屋敷の別棟に仮住まいの夫婦。ご近所の飼い猫が遊びに来るうちに、すっかり夫婦に馴染むのだが、しょせん猫は「お客さま」。深まっていく猫への愛情と、もどかしさ。大家さんであるおばあちゃんとの交流、当時の東京のバブル事情も絡めて。人もモノも、そして猫すらも、なにひとつ形を同じにしてとどまるものはないのだ、と教えられる。詩人でもある作家さんらしい、とても抒情的な作品。2017/08/21
mae.dat
211
話は静かに、会話もそこそこに進んで行くの。文学なのかなぁ。ネコへの想いも静かに、しかし確かに存在するの。特に奥さんの拘り。描写と共にしんみり沁み入ります。初めに住まわる舞台に付いて、具体的な地名は伏せたまま、詳述していまして、実際存在していたと思わせます。調査に行こうと思ったもん。後書きに依ると、現在は欅も失われたと言う様な事が書かれているので、そうなんでしょう。「稲妻小路」の呼び名は創作と思われますが、実際にそう思わす通りがあったんでしょうね。主人公が文筆家なのですが、分筆と言う言葉を知る事となる件。2022/06/15
小梅
149
初読み作家さんです。エッセイ的な小説。妻の存在が良いですね〜文章が柔らかい感じがして好きです。他の作品も読んでみたいです。2016/02/17
ちょろこ
138
ゆっくり味わいたくなる一冊。夫婦二人暮らしのもとへ自由気ままにやってくる小さな小さなお客さま。真っ白な毛並みにぶち模様の愛くるしいお客さま。いつのまにか夫婦の心にヒョイっと忍び込んで来たお客さま。可憐な姿でじゃれついて、ちゃっかり昼寝して、毎日可愛い足跡を心に残していってくれる。そんな可愛い猫の姿、しぐさがたっぷりと表現された言葉、夫婦の心の機微をゆっくり追って噛み締めて味わいたくなる作品だった。“わたしの猫”この言葉が印象的。かけがえのない愛が詰まった言葉みたい。思わずリフレインしたくなる。2020/10/27
ケンイチミズバ
128
妻の動物が好きにしているのが嬉しいから。というのは猫に限らない向き合い方だけど猫に対しての完璧に正しい向き合い方のようだ。手懐けるのは自然でない、人間のエゴ。しかも隣家の猫だ。耳をすませば隣近所の生活の音が聞こえる。人と人がまだ近かった時代の名残のある土地で古いお屋敷の離れを間借りする文筆家夫婦の日記のようなもの。猫がフラリと上がって来れたのを許せる時代の肌感覚が蘇る。猫の姿をした気の合う友達なので時々絶好したりもする。ペットを飼うことは人間が癒しを求める行為であって愛玩動物なんて種はそもそもないはず。2020/06/01