出版社内容情報
ハリウッド俳優Bの部屋からは決まって1冊が抜き去られていた――。客室係の「私」だけが秘密を知る表題作など、珠玉の短篇集。
内容説明
こうして書棚の秘密は私とB、二人だけのものになった―ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。Bからの無言の合図を受け取る客室係…。“移動する”六篇の物語。
著者等紹介
小川洋子[オガワヨウコ]
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
586
表題作を含む6つの短篇を収録。そのうち最後の2篇は他のアンソロジーと重複。また、巻頭の2篇は手法を幾分異にするものの、全体を貫流するのは透徹したまでの静謐さだ。主人公たちはいずれも、動きが少ないし、感情の振幅もまた少なくても表面上は少ないように見える。そして、これまでの小川作品に見られたような超越したものとの接点も、一見したところでは見当たらない。さらに奥深くイメージは沈潜してゆくのである。プロットも可能な限りはそぎ落とされている。最も小説らしい小説―例えばフローベールのそれのように純度が高い―だろうか。2020/04/07
starbro
359
小川 洋子は、新作中心に読んでいる作家です。小川 洋子ワールド全開の短編集ですが、今回はあまり入り込めませんでした。オススメは、表題作『約束された移動』& 絶対憶えたくない”ママの大叔父さんのお嫁さんの弟が養子に行った先の末の妹”が主人公の『元迷子係の黒目』です。2019/12/07
さてさて
318
六つの短編から構成されたこの作品。書名にある通り”移動する”ということに焦点を当てた短編集です。『働いている人を描写するときがいちばん、その人の本質がよくわかります』と語る小川さん。普段意識することの少ない職業に就く人たちに光を当てるこの作品。『そこにいるけど、いないも同じ』という人たちの姿を通じて、人と人との繋がりというものを考えるこの物語。六つの短編に描き出されるふわっとした優しさを感じる物語の中に静かに浮かび上がる人とモノの美しさを感じた、今まで読んだ小川さんの短編集の中で最も心魅かれた作品でした。2021/04/26
旅するランナー
254
ホテルの客室係、ダイアナ妃のドレスを真似て手作りして着る元エスカレーター補助員、ママの大叔父さんのお嫁さんの弟が養子に行った先の末の妹(元デパートの迷子係)、元編み物の先生、託児所の園長、大作家の通訳、そんな慎ましやかな女性たちの秘めた美点が微笑ましい6短編。褒めてもらえない誰かを励ます資格があるのは、同じく褒めてもらえない役目を負っている誰かなのです。さあ、ページから立ち上がってくる言葉の匂いをかいでみましょう。えっ、優しい香りがするって。わかります、わかりますよ。2020/03/24
ケンイチミズバ
199
いつもながら、翻訳された洋書を読んでいるようだった。ささやかで人畜無害な変人。ハリウッドスターやダイアナ妃への熱い執着、いわゆるストーカーだが、相手は雲の上か故人なので、害がない。自分が知らない誰かがどこかで自分に深い興味を抱き続けているとしたら。客室係は清掃とベッドメイキングの途中でセレブ御用達の部屋から備品の本が一冊ずつ無くなることに気付く。それを支配人に告げることはしない。無くなったのと同じ本を買い求め家で読書にふける。つまり、彼が読んだものをストーキングする。読書メーターにもそんな人、いるのかも。2019/12/02