内容説明
「正直に言へば、歌なんか作らなくてもよいやうな人になりたい」。そう願いながら生涯を歌とともに歩んだ天才歌人。啄木にとって歌を作るのは「我」と向きあうことだった。文学、恋愛、中退、挫折、彷徨、東京、借金、病魔、故郷―夢を見たのも、夢から覚めたのもその才のゆえであったろう。新しき明日を見渡したその眼は、また、ありふれた今日の中から近代の抒情を発見する。その代表作を厳選して紹介。各歌には現代語訳をつける。振り仮名つきで読みやすい丁寧な解説つき。歌人略伝・略年譜を付し、それぞれの歌人についてより深く知るための読書案内付き。
目次
東海の小島の磯の
砂山の砂に腹這ひ
大といふ字を百あまり
浅草の夜のにぎはひに
わが髭の下向く癖が
さばかりの事に死ぬるや
鏡屋の前に来てふと
非凡なる人のごとくに
はたらけどはたらけど猶
邦人の顔たへがたく〔ほか〕
著者等紹介
河野有時[コウノアリトキ]
1968年大阪府生。東北大学大学院文学研究科博士課程国文学専攻単位取得退学。現在、東京都立産業技術高等専門学校准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kaizen@名古屋de朝活読書会
65
#石川啄木 #一握の砂 #短歌 大という字を百あまり砂に書き死ぬことをやめて帰り来れり #返歌 小という字を千あまり紙に書きほとほと疲れ居眠り始め #解説歌 啄木の歌で一人が大というそれなら小は1とハと返す2016/01/10
森の三時
35
教科書に載っている近代短歌の歌人の中でも石川啄木の歌は分かりやすい日本語で馴染みやすいですね。地方から東京に働きに出た私にとって共感して口ずさみたくなる歌が幾首もあります。働く者の、都会で孤独を感じる者の、貧しき者の、虚弱な者の、そんな切なさがあります。2020/10/15
シグマ
9
湯川秀樹が某所で石川啄木を天才と語っていたので。時代背景や歌人仲間からの引用が多く親切な解説で読みやすい。歌を読んだ時に無意識に浮かび上がる効果の研究が深い。石川啄木はここまで読み手の時間差攻撃を理解して歌っていたのか、と驚愕。「血に染めし歌をわが世のなごりにてさすらひここに野にさけぶ秋」…こんな歌を当時の中学生で創れるとか全然並じゃないと思うが。啄木の作る孤独感は中々癖になると知った。2013/11/10
かつみす
7
「忙しい生活の間に浮んでは消えてゆく刹那々々の感じを愛惜する心が人間にある限り、歌というものは滅びない」(「歌のいろいろ」)。5章に分かれた『一握の砂』、そして『悲しき玩具』などから採られた50首を解説。駆け足で啄木の文学世界をたどることができる。百年以上前に創られた作品だけど、題材も歌いっぷりも鮮やかで、新しく感じられる。前途にあまり自信が持てず、立ちすくみ、過去ばかり振り返っている。そんな孤独な都会暮らしの若い男性の姿が浮かぶ。叙情と醒めた気分とが入り混じって、なんとも言えない翳りがある。それがいい。2018/01/17
ハルト
6
読了:◎ 〈我〉と向き合い、過去と現在の二重性を含ませることで、「かつてあった」もの「いまはない」というようになる。日常の瞬間を平易な言葉で捉えて歌う。そこはかとない寂しさが抒情となって、胸に響きました。2020/03/14