内容説明
斎藤茂吉。東北山形から出て、他の追随を許さぬ足跡を戦後まで残したアララギ派最大の歌人。医者勤めを果たしながら、子規以来の写生説を独自に展開。処女歌集『赤光』は、寂寥に満ちた孤独な生命の息づきを万葉風の骨ぶとな表現の中にうたい、芥川龍之介を始め、多くの人々に衝撃を与えたことは有名。「写生」を生の深奥にひそむ苦悩と融合させた「実相観入」の説は、近代短歌の一つの到達点を示している。刊行した歌集は十七に及んだ。小説家北杜夫はその次男。
目次
ひた走るわが道暗し
たたかひは上海に起こり
死に近き母に添寝の
のど赤き玄鳥ふたつ
山ゆゑに笹竹の子を
ほのぼのと目をほそくして
うれひつつ去にし子ゆゑに
けだものは食もの恋ひて
赤茄子の腐れてゐたる
ちから無く鉛筆きれば〔ほか〕
著者等紹介
小倉真理子[オグラマリコ]
1956年千葉県生。筑波大学大学院博士課程文芸言語研究科単位取得。現在、東京成徳大学准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
326
『万葉秀歌』を編纂した茂吉だが、彼自身の詠んだ歌集ではやはり『赤光』の感動を上回るものはない(少なくても私見ではそうだ)。中でも「死にたまふ母」の連作短歌群59首に籠められた痛切な想いは強く心を打つ。本書には3首が取り上げられている。①「死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞こゆる」②「のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳ねの母は死にたまふなり」③「山ゆゑに笹竹の子を食ひにけりははそはの母よははそはの母よ」である。②が最もよく知られた名歌であろう。今の私に共感を超えて迫るのは③の歌である。2022/12/08
kaizen@名古屋de朝活読書会
59
#斎藤茂吉 #短歌 赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり #返歌 赤茄子の腐りかけてるところ煮ていく程もお代わりして喰った まだまだ茂吉の全体像がつかめていない。参考書として拝読中。2016/01/10
ハルト
5
読了:◎ おのれを客観視する写実の視点と悲愴感と孤独感が合わさって、暗色を抱えたような短歌になっていました。『赤光』の「死にたまふ母」が特に心打たれたかも。2020/01/21
笛の人
3
正直に言うと、あまりピンとこない歌が多かったです。なぜなのか理由を考えてみると、一つはリズムがしっくりこないのだと思います。字余りや句またがりが多く、読んだ時にすっと入ってこない。すっと入ってこないことが逆に効果的である場合もあるとは思うのですが、ここに違和感を覚えたのだと思います。また、巻末解説に引用されていた茂吉の「実相に観入して自然・自己一元の生を移す。これが短歌上の写生である」という写生論が印象に残りました。最も良いなと思った歌は「やまみづのたぎつ峡間に光さし大き石ただにむらがり居れり」です2023/02/06
スエ
3
1首目からもう切実で、48首じゃ足りないなぁと。とくに初期の歌を、もっと知りたい。そう思わせてくれる良書です。「あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり」2011/10/23