内容説明
各個人の「自由」な活動の空間の確保と「生命」を維持するための安全保障を二大目標に掲げてきた近代国家は、人々の「生」の形を“自ずから”「正常=規範性」に従属させる高度な「生・権力」を築き上げてきた。しかし、近年、医療・生命倫理・性の領域において強調されるようになった「自己決定権」の問題を中心に、「自由への権利」と「生命管理」の間の根源的な矛盾が露呈されつつある。金沢大学附属病院産婦人科での無断臨床試験をめぐる訴訟を具体的な出発点としながら、医療体制を中心に形成される生・権力のただ中にあって、「自由」を実質化することの困難について考察する。
目次
第1章 私的領域における「法」(プライヴェートな領域の不可侵性?;「親密圏」と他者の権利 ほか)
第2章 医事法における「公/私」の境界線の曖昧さ―人体の公的管理と自己決定権の狭間で(はじめに:医学研究における「患者の身体」;医療における「自己決定権」が語られる文脈 ほか)
第3章 「人体実験」とインフォームド・コンセントの法理―金沢大学医学部附属病院無断臨床試験訴訟を素材として(はじめに:金沢地裁判決の歴史的意義;事件の経過:「無作為比較臨床試験」の制度的矛盾 ほか)
第4章 医事訴訟におけるQOLと「自己決定」―金沢大学附属病院無断臨床試験訴訟を起点として(はじめに:医事訴訟におけるQOL;QOLを構成する客観的基準と主観的基準 ほか)
第5章 「自由」と「暴力」(自由の逆説;「生かす権力」 ほか)
著者等紹介
仲正昌樹[ナカマサマサキ]
現職、金沢大学法学部教授。専攻、社会思想・比較文学
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