内容説明
筆師職人のもとへでしいりして三年目に、はじめて自分の手で作りあげたばかりの筆を親方にへしおられ、家をとびだした冬吉と幼なじみのおりんとの出会いと別れを描く「筆」。祇園祭り用の鉾の車に百年の生命を刻みこむ車大工の親方と三吉を描く「さんちき」。幕府軍と長州軍とのいくさで焼土と化した京のまちを、兄をさがして歩く弁吉を描く「夏だいだい」など、激しくゆれ動く幕末の京都を舞台に、けなげにひたむきに生きる子どもたちを描く傑作短篇集。七話収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
IENEKO
7
図書館本。この本の出版当時に図書館で初読。もう一度読みたかったのだけどタイトルを忘れてしまい、なかなか再読が叶わなかった想い出の1冊。幕末の動乱の京都。そこで生きる少年・少女を主人公にした7つの短編集。市井に生きる者たちの心情が細やかに描かれた秀作。分類は児童文学だけど読み応えがあり、大人でも十分に楽しめます。どの話も後日譚が読みたくなりますが、中でも寺田屋の女中りつと幕府軍から逃げ出した少年武士の一瞬の邂逅を描いた『船宿』のその後が知りたい。京の町人の逞しさを描いた『さんちき』も好き。2016/10/28
いよの缶詰め
3
時は幕末の京都。激しく揺れ動く時代を七人の少年少女は懸命に生きようとしている。どの話も躍動感があり、今にも煙の匂いが漂ってきそうな気がしてならなかった。まるで自分もこの世界に生きる人物になってしまったのだろうかと錯覚した。2021/12/21