出版社内容情報
インドで大きな政治的勢力となったヒンドゥー・ナショナリズムとは?イスラムを敵視し、激しい暴力に走る、その内在論理に肉迫する。
本書は80年代以降、インドで確固たる社会的・政治的影響力を持つに至った「ヒンドゥー・ナショナリズム」を研究した本である。
「ヒンドゥー・ナショナリズム」とは、ヒンドゥー教を背景としたナショナリズムのことであり、90年代に政権を担ったこともあるBJP(インド人民党)がヒンドゥー・ナショナリズム政党として知られている。著者はインドでBJPの下部組織RSS(民族奉仕団)を対象とするフィールドワークを行い、この研究をまとめた。
本書の問題意識は、「ヒンドゥー・ナショナリズム」という言葉に対して、日本人が持つだろう違和感に集約されている。つまり、「ヒンドゥー」というインドの伝統的宗教が、なぜ近代的な概念である「ナショナリズム」と結合するのか? ということである。
近代に入り脱魔術化(ウェーバー)された社会では、宗教の役割は次第に「私的領域」に閉じ込められ、限定されていくとされてきた。それは個人の生活の習慣を支えたり、精神の安定には資するとしても、近代的な国家、社会、共同体において、積極的な役割を果たすことは少なくなっていくだろうと考えられていたのだ。
しかし、「ヒンドゥー・ナショナリズム」という現実は、その枠組みから外れてしまう。インドが遅れている(まだ脱魔術化されていない)から、そのような現象が起きるのだという言説は成り立たない。なぜなら、インドが世界資本主義の一部に呑みこまれていくにつれて、「ヒンドゥー・ナショナリズム」は興隆し、その影響力は増していったからだ。個人の不安や苦悩に応える「ヒンドゥー」がいかに「(ヒンドゥー)・ナショナリズム」というときには激しい反イスラム的あるいは排外主義的な暴力も伴う運動につながっていくのか? 本書はその内在原理に肉迫した、みずみずしい研究である。
内容説明
インドの伝統的宗教であるヒンドゥー教とナショナリズムはいかに結びつき、排外主義的な暴力を伴うヒンドゥー・ナショナリズムとなったのか?インドでのフィールドワークを経て掴み取られたナショナリズムと宗教の深層。日本の右翼思想を研究しつづける著者の原点がここにある。
目次
第1章 公共圏・ナショナリズム・宗教
第2章 ヒンドゥー・ナショナリズムの歴史
第3章 ヒンドゥー・ナショナリズム運動の組織と理念
第4章 身体のポリティクス
第5章 サバルタン的公共性とヒンドゥー・ナショナリズム
第6章 ヒンドゥー・ナショナリズムと暴力
著者等紹介
中島岳志[ナカジマタケシ]
1975年、大阪生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。学術博士(地域研究)。現在、北海道大学大学院法学研究科准教授。専門は南アジア地域研究と近代政治思想史。アジア研究を背景に日本の近代政治思想史を読みかえ、再構築する仕事を続けるとともに現代の政治状況についても積極的に発言している。『中村屋のボース』(大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞)など著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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