出版社内容情報
「萬葉集」が息づく土地で生まれ育った著者が「萬葉集」に詠みこまれた時代精神と土地の記憶を味わい、それが遺された幸せを記す。
萬葉集揺籃の地、奈良県桜井町(現桜井市)に生まれた保田與重郎は、萬葉集を生涯、愛し、論じつづけた(『萬葉集の精神』『萬葉集名歌選釈』など)。
本書は保田が晩年に萬葉集の魅力をあらためて論じたものである。
萬葉集が詠まれた時代の精神と土地の記憶が一首一首に寄りそって丁寧に語られ、萬葉集への愛が素直に吐露される。
天武天皇、持統天皇、柿本人麻呂、山部赤人、大伴家持から山上憶良、防人まで萬葉集を縦横に論じる語り口には淀みがない。
天才歌人・柿本人麻呂への賛仰が語られることはいうまでもないが、萬葉集を編纂した大伴家持への高い評価と深い共感が語られる。家持は光輝に満ちた「古代」が失われたことを認識し、その「古代」を再び意識的に生きなおし、再創造することを主体的に選んだ貴族として描かれる。これが保田の萬葉集への没入の入口であり、出口であろう。
読者は萬葉集に吹き込まれ、今に遺された魂がいかなるものであったのかを感じることだろう。萬葉集を読んだことがない読者にも、長年、親しんでいる読者にも開かれた書物である。(解説・片山杜秀)
内容説明
日本浪曼派を代表する文藝評論家・保田與重郎は萬葉集を育んだ大和桜井に生まれた。その歌に通暁することで自身の批評の核となる「浪曼的なイロニー」を掴みとった著者が萬葉集揺籃の地を歩き、古代の精神に思いを馳せ、歌にこめられた魂の追体験へと誘う。
著者等紹介
保田與重郎[ヤスダヨジュウロウ]
1910年、奈良県桜井町(現・桜井市)生まれ。文藝評論家。東京帝国大学文学部在学中に「コギト」、卒業後「日本浪曼派」を創刊。ヘルダーリンやシュレーゲルなどのドイツ・ロマン派と日本の古典を往還しながら、近代批判を展開し、独自の地平を切り開いた。36年、『日本の橋』『英雄と詩人』を上梓し、文藝評論家としての地位を築く。45年、病中に応召し、中国大陸で敗戦を迎えた。戦中の言論活動により、好戦的文士とみなされ、48年、公職追放に処せられる。81年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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