文春文庫
こぶしの上のダルマ

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  • サイズ 文庫判/ページ数 233p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784167545154
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

内容説明

人生の関所を通り過ぎたいま、苛烈な思い出と和解を果たす。どこからきてどこへ消えたのかもわからないままのおばさんも、折り合いの悪いまま逝ってしまった父親も、故郷の廃屋に茂る夏草さえ、いまはただ愛おしい。医者であり小説家である著者が、魂の再生を静かに描いて、深い感動を呼ぶ八篇の連作小説集。

著者等紹介

南木佳士[ナギケイシ]
1951年、群馬県に生れる。秋田大学医学部卒業。現在、長野県佐久市臼田に住み、佐久総合病院に勤務。地道な創作活動を続けている。81年、難民医療日本チームに加わり、タイ・カンボジア国境に赴く。同地で「破水」の第53回文學界新人賞受賞を知る。89年、「ダイヤモンドダスト」で第100回芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

278
小説とエッセイの中間的な色合いの作品であり、どちらかといえばエッセイ寄りかと思いつつ読み進めるうちに、どうやらこれはこうした様式の小説であることに気が付く。いわゆる私小説ではないが、素材は徹底して自己及びその周縁の人物たちや事柄である。南木佳士にとって、この時期はようやく鬱から這い出したその後ということになる。奇妙なタイトルだが、これが冒頭と巻末に現れ8つの連作短篇に結構を与えるのである。八ヶ岳の山行における自己の身体、また村の老爺たちや老婆たちの身体に染みついた生のあり方が、実に強靭なまでの実態を持つ。2015/07/27

新地学@児童書病発動中

121
解説によると、南木さんの本を常備薬と見なしている女性がいるそうだ。私も彼女の意見に賛成だ。この作者の本を読むと、心の中に抱えている屈託がすうっと小さくなる。医者の小説だから薬のように働くわけではないと思うが、心によく効く物語だ。書かれていることは医者としての日常や自分の家族のことなどで、真新しいことはほとんどない。それでも豊かで、瑞々しく人肌の温もりがある。医者として接する人々を単に患者と見なさずに、自分の同士として共感している姿勢が好きだ。亡き父との和解を描く「歩行」は絶品。泣けた。2016/05/01

chimako

97
相変わらず慈味深い小説だった。自身と自身の周りを描いた短編8編。好きだったのは「稲作問答」もうじき70歳になる専業農家の西野さんと田んぼの畦に腰を掛けての世間話が綴られている。この西野さんが時々放つ辛辣な言葉に読み手もニヤリとしたり背筋を伸ばしたりする。「おめえもなあ、いい歳になっただから、たら、れば、の話をするじゃあねえよ。もしあんときそうだったらってのはなあ、あんときそうじゃなかったいまの自分が思ってるだけのもんだよ。あんときそうしなきゃあならなかったいまの自分がな。」そうですね、西野さん。心します。2017/05/21

みも

86
30~40頁の短編8篇。鬱という泥濘に溺れながら生きてきた著者の痛みの断片が、そこかしこに散逸する。時に自虐的に語られる無力感を内包した真摯な生き様。また『稲作問答』に於いては、70歳の老人を相手に子供のようなじゃれ合いで人懐っこさも見せ、『集落の葬式』では現代社会から失われつつある村落の濃密な人間関係を描き、名著『阿弥陀堂だより』に通底する無駄なものを削ぎ落した生き方に仄かな憧憬を滲ませる。佐久、浅間山、八ヶ岳、麦草峠や千曲川…静かな感懐と共に、これからも幾度となく馴染みあるこの地を思い起こす事だろう。2019/09/10

kaoru

59
内科医として長野の病院に勤務する著者の短編集。自伝的な作品ばかりだが独特の滋味がある。亡き父の「アジト」を扱った『歩行』、老人との飄々とした会話を楽しむ『稲作問答』,医師と作家の二足の草鞋を履くうえで頼ったワープロとパソコンを描く『こぶしの上のダルマ』。鬱の描写は真に迫るが八ヶ岳や蓼科などの自然の描写が瑞々しい。著者を救ったのも自然だろう。「森は木の香に満ちる。その新鮮で濃密な揮発物を肺の奥、細気管支のすみずみにまで吸い込む」短編『山と海』は沖縄出身の研修医を受け入れた顛末をタイでの日々を絡めて描く。⇒2021/04/13

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