文春文庫
海へ

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  • サイズ 文庫判/ページ数 208p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784167545116
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

内容説明

思えば山ばかり見て暮らしてきた。医学生時代の友人に誘われた、海へ行ってみようか。心の病を得て以来、一人で電車に乗るのは十年ぶりである。旧友の海辺の診療所で過ごす五日間の休暇。朝市の老婆に亡き祖母の顔を見、崖下の洞窟でイワシを焼いて少女と語らう。だが、そこにも…。癒し癒されきれぬ人々の心の内を描いた名作。

著者等紹介

南木佳士[ナギケイシ]
昭和26(1951)年、群馬県に生れる。秋田大学医学部卒業。現在、長野県南佐久郡臼田町に住み、佐久総合病院に勤務。地道な創作活動を続けている。56年、難民医療日本チームに加わり、タイ・カンボジア国境に赴く。同地で「破水」の第53回文学界新人賞受賞を知る。平成元年、「ダイヤモンドダスト」で第100回芥川賞受賞
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

275
体系的に時系列を追って読んでいるわけではないのだが、南木佳士氏の本はこれで12冊目となった。出生も、その後の境遇も、そして現在の環境も、まったくといっていいほどに違っているのだが、どういう訳か彼の小説を手に取り、その作品世界に投入してゆく。さて、この度の小説では、積年の鬱からは大きな立ち直りを見せている。今回は高知とおぼしき青い太平洋の海辺の町に物語の舞台は展開する。秋田大学時代の同級生の娘、千絵とのささやかな触れ合いが中核ををなすが、どうやら今回の小説の大部分はフィクションではないかと思われるのである。2016/06/23

みも

110
抒情的で滋味深く、静かなる余韻に心が和らぐ。「海」とは、医学生時代の友人が3代目を継ぐ海辺の診療所の事。山国生まれ山国育ちの僕は、海への抑え難い憧憬がよくわかる。それはある種の開放で、沈潜しがちな心の淀みさえも白波が洗い流してくれる。人との関わりを避けてきた心を解きほぐすのは、やはり人との交わり。戯曲風のダイアローグが活かされた少女との交流がとても印象的。そして「人間の子供に対して、つぶれる、などと機械に対するような言葉を用いるものではありません」との一喝にハッとした。著者の言葉への思いが凝縮されている。2019/11/21

新地学@児童書病発動中

110
主人公の医師が海辺へ出かけて自分を見つめ直す物語。プロットは単純なのだが、過去と現在が縒り合されて厚みのある内容。作者の他の小説と同じように仕事で絶えず死と直面する苦しみが書き込まれている。主人公は心の病にかかっており、病気から回復するためのリハビリの旅でもあるのだが、旅先の友人の家でも似たような病を抱えた人物に出会ってしまう。生の苦しみは尽きることはない。それでも主人公は旅で出会った人たちや自然によって癒される。ちょっとませた友人の娘が魅力的な登場人物で、地味な物語に彩りを添えていた。2015/05/31

NAO

83
転地療養のつもりで出かけた海辺の町。山に囲まれた暮らしをしていた主人公に、海は癒やしとなった。呼んでくれた友人に感謝した。だが、そこに住む友人の家庭もまた、深刻な問題に陥っていた。海は、全ての人の癒やしになるわけではない。いつ折れてしまうかわからないもろく、繊細な心。その心と、どうやって折り合いをつけていったらいいのか。しずかな言葉が、そのしずかさゆえに、いっそう重く深く、心に響く。2020/03/12

mura_海竜

63
医者で極限の環境。癌患者を見送るうちに自分も心療内科に。「真の名医は恐らく極端に鈍感」と、本人。たくさん、苦労して、心が枯渇しても、なおも患者を見送る。彼の強い使命感を感じる。療養生活に。大学の同級生松山、彼を気にし転地療養として、海の近い松山の診療所に泊まる。帰る前の日、彼の奥さんから扉に差し込まれた手紙に涙した。松山もつらいものを引きずっている。海、海、海。群青色。青く深く、空の色との違う海。自然に抱かれている、その人間の営みを包むようにそっと見つめている。2016/10/07

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