文春文庫
山中静夫氏の尊厳死

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  • サイズ 文庫判/ページ数 233p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784167545109
  • Cコード C0193

内容説明

生まれ故郷にみずから墓を作り、苦しまずに死ぬことを願う末期癌患者。家族との妥協を拒み、患者本人との契約によって、初めて尊厳死に臨もうとする医者。その葛藤を克明に描いた表題作と、難民医療団に加わって過酷な日々を送る人々の、束の間の休日に起こった出来事を、安吾の『堕落論』に仮託して描いた中篇とを収める。

著者等紹介

南木佳士[ナギケイシ]
昭和26(1951)年、群馬県に生れる。秋田大学医学部卒業。現在、長野県南佐久郡臼田町に住み、佐久総合病院に勤務。地道な創作活動を続けている。56年、難民医療日本チームに加わり、タイ・カンボジア国境に赴く。同地で「破水」の第53回文学界新人賞受賞を知る。平成元年、「ダイヤモンドダスト」で第100回芥川賞受賞
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

新地学@児童書病発動中

109
がんで余命宣告された患者に真摯に向き合う医師の物語。南木氏は私小説の作家なので、自分の経験に基づいてこの物語を作り上げたのだろう。患者の心にできるだけ寄り添おうする主人公今井の姿勢が胸を打つ。医師ではなく、同じ人間として、患者の尊厳を守りながら接していくのだ。今井の家庭での生活もきちんと書き込まれて、死が特別なものではなく、日常生活の一部として表現されている点も、この物語を説得力のあるものにしている。亡くなった患者の墓参りに行く最後のシーンは涙なしでは読めない。南木佳士の文学の良さが凝縮された場面だ。2016/08/07

みも

68
私小説というのも憚られる程、あまりにそれは著者自身について語られ、修辞的技巧さえどこかに置き去りにしたように、率直で、赤裸々で、リアルだ。そうだ…かつては癌患者本人への告知は禁忌であった。いつの頃からであろう…告知が通常化したのは。昨年10月、義母を膵臓癌で亡くした。まさに余命宣告を受けたが、淡々と生き抜いた。抗がん剤は使用したが、延命治療は施されなかった。つまり近親者に「尊厳死」した者がいたという事。亡くなる数日前、食が細り衰弱しつつも「美味しい」と呟きながらかき氷を啜っていた姿が、瞼に焼き付いている。2018/10/22

trazom

65
病院での初対面で「肺癌の山中静夫です」と挨拶する末期の肺癌患者と、余りにも多くの死を見つめすぎて、自らの精神に変調をきたした主治医。それまでやってきた治療は「家族と共犯の安楽死」ではなかったのかと悩む医師が、山中さんの最期と関わる中で、尊厳のある死とは何かを見つけようとする。医師であり芥川賞作家として、自らが悩み、うつ病を経験されたこともある南木さんの人生が投影された小説だけに、一つ一つの言葉が切実に胸に迫り、深い感慨が心に残る。お盆の蝉の声を聞きながら、いい小説を読んだという充実感がある。2020/08/19

hushi亜子

54
本屋で見た時に、タイトルにゾクっとさせられ思わず手に。人物名に尊厳死って。小説とはおもえぬタイトル。安楽死と尊厳死の違いとは?この山中静夫さんは、外来の診察室に入ってきた途端「肺癌の山中静夫です」と挨拶する。これほど衝撃的な自己紹介って!彼の思う人生の閉じ方、それにとことん付き合ってみようとする主治医。とても人間味溢れていて大好きです。印象に残るお話でした。もう一作の方も、海外難民キャンプの医療団チーム。大変さでは無くてこれまた人間味溢れてて好きでした。この本は良いです。またきっと読み返したくなります。2020/03/30

piro

46
いずれも南木さんの私小説の様な作品2編。淡々と綴られる文章から、生き方・死に方を問いかけられた気がします。山中静夫という末期の肺癌患者が望む「死に方」に、幾ばくかの厄介さを感じながらも、真摯に向き合おうとする医師今井の姿、それはかつての南木さんの姿なのでしょう。終末医療のあり方、患者・家族・医師其々の向き合い方、正解はないのでしょうが、自分の事として考えていかないとなぁ。難民医療団の束の間の休暇を描いた『試みの堕落論』は過酷な医療現場で生きる人々の強さと弱さが印象的。彼らの人間らしさを感じられる良作です。2022/11/27

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