内容説明
「冷酷無比な独裁者」「無思想な権力者」「天皇を守った忠臣」など、さまざまな評価がある生涯を「総力戦指導者」として再検証する。イデオロギーを排除した新しい東條像。
目次
第1章 陸軍士官になる
第2章 満洲事変と派閥抗争
第3章 日中戦争と航空戦
第4章 東條内閣と太平洋戦争
第5章 敗勢と航空戦への注力
第6章 敗戦から東京裁判へ
著者等紹介
一ノ瀬俊也[イチノセトシヤ]
1971年、福岡県生まれ。九州大学大学院博士後期課程中途退学。博士(比較社会文化)。専門は日本近現代史。国立歴史民俗博物館助教などを経て、埼玉大学教養学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
70
特攻や日本軍の戦場での現実に関して書き続けている著者ならではの内容で、このともするとすべての戦争責任を背負わされたかのような人物について、極力等身大に描き出そうとしている。本書を読むと、むしろ当時の文官や海軍が、自分たちへの火の粉を防ぐために東條を利用し、また陸軍第一主義で直線的思考の東條も、まんまとその役にはまってしまった印象。そして戦後東條を悪役に仕立てることで免罪された者が多々いたことも事実だろう。もちろん戦陣訓などのもたらした罪は重いが、本書のような冷静な東條像をこの著者がものした意義は大きい。2020/08/07
ふみあき
46
東條英機の悪名の原因として、愚劣な精神主義に基づく数々の政策があるが、例えば「生きて虜囚の辱を受けず」の「戦陣訓」は、彼の前任の陸軍大臣である板垣征四郎の時に作成が始まった。また竹槍訓練の真意は、それでB-29を墜とせというのではなく、本土に降下した米軍パラシュート部隊を突くくらいなら、女子供にもできるだろう、という程度の発想らしい。実際、東條は対米英戦において、航空戦力の拡充を最重要視していた(もっとも航空特攻の責任は免れない)。いろいろ逸話はあるが、従来の東條のイメージが刷新されるというほどでもない。2023/06/13
パトラッシュ
46
東條英機は最後に失敗した半沢直樹かも。仕事はできて組織に忠実な自信家だが、やられたら倍返しするし一切を自分でやらねば気が済まず手段を選ばないところはそっくりだ。こういう男は日本的組織では重宝され出世するが、組織外の人や機構も自己流で支配しようとしてうまくいかずに逆ギレする。しかも上意下達が絶対の軍隊しか知らないから、複雑怪奇な情念が支配する政治を思うように操縦できなかった。そこで一身に権力を集中し、メディア戦略で国民を味方につけ「総帥」を演じたわけか。似合わぬ役を無理にやらされて失敗した喜劇役者に思えた。2020/08/21
kawa
42
陸軍の実力者・東條英機は軍部を抑え戦争回避の切り札として天皇や重臣から首相に白羽の矢が立てられた。しかし、陸軍はシナ事変による20万人の犠牲者と莫大な費用にとらわれ、海軍は自らの権益確保を気にして戦さに対する自信の無さを言い出せず、ルーズベルトは戦争がしたくて譲歩する気がない。正に「合成の誤謬」で始まる大戦。一転、東條は軍人として職務を完遂すべく「独裁者」を演じ始めた。その手法は「憲兵隊」を利用するコワモテ手法と、黄門的演出を交えた庶民派の顔の二面性を持っていた。新書ながら400頁弱の読み応えありの良書。2020/11/16
MUNEKAZ
19
ヒトラーやスターリン、ルーズベルトやチャーチルと比べると狂気やリーダーシップに欠けるというか、器の小ささが目立つ印象。総力戦への理解、航空戦の重視など軍人として決して無能でないだけに、政治・外交に対する狭量さを痛感させられる。また重臣グループや軍部の無責任っぷりも大概で、なんでも兼任したり国民に支持される戦争指導者を大真面目に演じようとする東条の愚直さが哀れに思える面も。最期に戦犯として死ねたことは、敗軍の将にして天皇の忠臣たる彼にとって救いであったのかもしれない。2021/07/11