内容説明
ドイツとフランス、父と母、現在と過去、音と光、友情と裏切り、男と女…。主人公シャルルは親友とその妻との三角関係に悩み、ひたすら17世紀の音楽に没頭していく。鬼才キニャールが現代に甦らせる絢爛たるバロック小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
内島菫
30
記憶の不確かさは、同じ場所と時間を分け合った人々の間において確かめられる。まるで各人が嘘をついているかのように、共通の思い出と思い込んでいる異なる回想を取り出してみせては、うろたえ、いたたまれなくなる。その中で一見確かに思える人や土地の名前は一種のアジールだ。そしてもちろん人が自分の故郷にしたい土地や言語も亡命先だ。私たちは言葉にできないものや滅びゆくもの、誰にも顧みられずあっけなくなくなってしまうものを、言葉へ亡命させている。言葉を使うということはそういうことではないだろうか。2019/05/16
Mark.jr
1
現代のフランスにバロック文学を復活させようと試みる作家Pascal Quignard。この作品も読み所は、ストーリーそのものよりも、凝りに凝った文章や、過去と現在がナラティブに溶け合った物語の構造でしょう。ウイスキーやブランデーなどアルコール度の高い蒸留酒ような、上級者・読み慣れた大人のための小説。2020/06/04