感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
50
グレアム・グリーンが描くメキシコ版『沈黙』。踏み絵を踏んで棄教した元司祭と、潜伏しながら飲んだくれて子どもまで作った『ウィスキー坊主』。どちらも教えに背く行為をしているが、常に神を意識し、おのれの中に神を持ち続けた『ウィスキー坊主』は誰よりも神に近い存在だったのではないだろうか。また、下層階級出身で社会悪を根絶やしにすることに命をかけている警部は、『ウィスキー坊主』と対極にありながら、よりよい生活を求めるという理想に向かっておのれの信念を貫いて生きているという点で、彼と同じだったのではないだろうか。2017/06/11
syota
33
20世紀前半、共産主義政権下のメキシコを舞台に、弾圧を逃れ逃避行を続ける司祭と、彼を追跡する共産主義を信奉する警部、司祭を官憲に売り渡そうとする貧しい男を中心とした物語。司祭は意志の弱さから酒に溺れ女に手を出したが、追い詰められすべてを失うと聖職者としての鎧や見栄が剥がれ落ち、本来の善良な性格とピュアな信仰が現れてくる。一方で、中南米における植民地支配の有力な手段であったカトリックの歴史を考えると、貧民出身の警部がカトリックを敵視するのも無理からぬものがある。→2022/03/15
テイネハイランド
11
図書館本。原書の文章が難解なので、それを読む時の参考文献として読みました。日本語による翻訳を読むことで、グレアム・グリーンの文章への理解が進む箇所もあったのですが、翻訳本を読んでも意味が通じない箇所も結構多く、今後の研究や翻訳への課題は残るように思われました。ナボコフやフォークナーなどの研究は盛んですが、グレアム・グリーンについても、後世に残る古典文学としての価値は十二分にあると思うので、しっかりとした注釈本が待たれるところです。2021/01/29