内容説明
妻の頭を帽子とまちがえてかぶろうとする音楽家、からだの感覚を失って姿勢が保てなくなってしまった若い母親、オルゴールのように懐かしい音楽が聞こえ続ける老婦人―脳神経科医のサックス博士が出会った奇妙でふしぎな症状を抱える患者たちは、その障害にもかかわらず、人間として精いっぱいに生きていく。そんな患者たちの豊かな世界を愛情こめて描きあげた、24篇の驚きと感動の医学エッセイの傑作、待望の文庫化。
目次
第1部 喪失(妻を帽子とまちがえた男;ただよう船乗り ほか)
第2部 過剰(機知あふれるチック症のレイ;キューピッド病 ほか)
第3部 移行(追想;おさえがたき郷愁 ほか)
第4部 純真(詩人レベッカ;生き字引き ほか)
著者等紹介
サックス,オリヴァー[サックス,オリヴァー][Sacks,Oliver]
1933年、ロンドン生まれ。オクスフォード大学を卒業後、渡米。脳神経科医として診療をおこなうかたわら、精力的に作家活動を展開し、優れた医学エッセイを数多く発表する。現在もコロンビア大学教授をつとめる。『火星の人類学者』は、全米で大ベストセラーとなった
高見幸郎[タカミユキオ]
1930年生。東京大学文学部卒業。津田塾大学教授、帝京大学教授を歴任
金沢泰子[カナザワヤスコ]
1952年生。津田塾大学大学院修士課程修了。新潟国際情報大学講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
2014年5月1日〜本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
248
脳は凄い。故に脳の病気は困ったな。全てを司っていますからね。脳の作り上げた世界が、自身にとっては全てで、絶対でもありますからね。記憶、思考、身体の各パーツとの連動と、どこに不具合を生じても大問題を抱えそう。実際そうした事例が紹介されています。然し乍ら、困っている人も、困っている事すら理解していないだろう方も居ますが、その世界でしっかり息づいてる方も居り。またその方が幸福であると言う例などもあり。障碍を持つ方が突出した才能を示す例もありますね。少なくとも幸不幸は、外の人間が決める事では無いのかな。少し混乱。2022/11/14
藤月はな(灯れ松明の火)
83
有名な「妻を帽子と間違えた男」ですが、当事者の妻がそれを当たり前の事として受け入れているという事実に驚いた。勝手に自分の常識を当て嵌めて「妻はそれに困っている」と思い込んでいた事を痛感させられました。歌が絶えず、脳内で流れる二人の婦人の話は二人の境遇の違いで受け取り方が違うのが興味深い。一方で生きにくさもあるが個性にもなり得る事を症例として分類し、可能ならば薬で治療するという方針に居心地の悪さを覚える。しかし、トゥレット症のレイ氏のように本人の希望と状況に応じて服薬を止める事もできると知って安堵した。2021/09/04
nemuro
59
随分な期間を要しての読了となってしまったが、かと言って面白くなかった訳ではない。とても感慨深い本だった。3、4年前に既読の『妻が椎茸だったころ』(中島京子/講談社文庫)のことを思い出しながらの購入(タイトルに「妻」がある以外に共通点はないのだが)だった本書。そんな、申し訳ないように不純な購入動機のまま、ソッと本棚で佇んでいたところをたまたま発見し読み始めてみた。「脳神経科医のサックス博士による、驚きと感動の医学エッセイ」。24篇を収録。かつて札幌の満員の映画館で観た『レナードの朝』の原作者でもあったとは。2021/01/25
Koji Eguchi
57
図書館でのパッと見借り。全編興味深いが、特に知的障害者や自閉症者の特異な才能やそれを伸ばすことの重要性に気付かされた。★★★。20桁の素数を見いだすとか8年前の日の曜日を直ちに当てるとか、考えられない才能。そして自閉症者の描く絵のオリジナリティーには唸らさせられた。もちろん障害者が皆天才ではないが、機能に欠落があればそれ以外の機能が非常に発達することはある。記憶機能や芸術面等で健常者よりもはるかに優れた障害者を一般社会の枠にはめようとしてその才能を押し潰すことはあってはならないと痛切に感じた。2025/02/19
gtn
50
「ただよう船乗り」の一篇。コルサコフ症候群のジミーには1945年以降の記憶がない。しかし、彼は魂まで失ったわけではない。礼拝堂で聖体拝領の儀式に一心を集中し、神に身を委ねるジミー。その敬虔な姿に心打たれる著者。宗教こそが人間を人間たらしめることが分かる。2019/12/13