出版社内容情報
〔ヒューゴー賞受賞〕大地をおおいつくす巨木の世界は、永遠に太陽に片面を向けてめぐる、植物の王国と化した地球の姿だった! 人類はかつての威勢を失い支配者たる植物のかげで細々と生きのびる存在に成り果てていた……。イギリスSF界を代表する巨匠が、悠久の時の果てにSF的想像力の精髄を展開する名作
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
65
地球の自転が止まった事で人間の文明社会が滅亡し、人間を養分とする食人植物などの植物類によって覆われた遠未来。生き残った人間達は身を隠しながら原始的に生きていた。ある日、侮蔑しているが叶わない鳥人から種の繁栄のため、人間の子供を攫ってこいと命じられるが・・・。殆どのSFが人間文明の発展と現状への打開が描かれやすい。しかし、オールディスは「人間文明は滅びるなら滅びろ。人間のいなくなった世界での覇者は植物しかない」という考えみたいだ。アミガタケの寄生主であるグレンがド屑なのもその影響なのかな・・・。2017/01/15
催涙雨
63
どうしてこれほどの世界を構築しておいてこんなにつまらない話が書けるのだろうか。その世界にしてもファンタジーめいた途方もない生物相をもっともらしく語るための言い訳に放射線や太陽光の万能性を利用しているようにしか思えないものなのだが、これはまあその想像力の奔流が面白いのでぜんぜん構わない。遠未来で地球の自転が止まり植物が発達して人間が追いやられるという設定・世界観はほんとうに素敵なのだ。植物に支配された世界で少しずつ滅びゆく人間の様子が断片的に描かれる序盤は、濃度の高い酸素が匂い立つような自然の力を感じられて2019/04/30
ちこたん
60
★★★★☆遠い未来、人類が衰え植物が覇権を握った世界の物語。すごい、世界の構築が想像力の範疇を軽々と超えていて、とてもわくわくする。寄生主の脳を操り繁殖を企てる「アミガサダケ」は、カタツムリに寄生し操る寄生虫を連想した。非常に醜くグロテスクな形状の「アミガサダケ」は人間の煩悩そのものである。他にも常ならばそれだけでSF作品が一つ出来そうなディテールが数多くあるが、世界観全体があまりに圧倒的すぎて、さらっと通り過ぎる。登場人物の魅力や、ストーリー性などは皆無なので、あくまで世界観の堪能に徹すべき作品。2015/12/18
おたま
58
地球が自転を止め、月も公転を止める。太陽は巨星化し、空の大きな部分を占めている。そんな遥かな遠未来。地球は同じ面だけをいつも太陽に向けているため、植物が異常に繁茂し、動物は放射線のためにほとんど死滅している。それでも生き残った少数の人類の物語。だが、ここでの主役は、奇怪なまでに変異した植物たち。蔓を月まで延ばし、月へと渡っていくツナワタリ。大陸のほとんどを埋め尽くすただ1本のベンガルボダイジュ。人間の知能を補い助けるアミガサダケ。その他、想像を絶する植物たちが登場する。想像力の極限を目指すSF。2022/04/17
流言
57
アミガサ、山耳、海憑、スナダコ、ベンガルボダイジュ、ツチスイドリ、ジゴクヤナギ、アシタカ。訳者あとがきの言葉を借りるならば「SF作家の生命である想像力の限界を賭けた」ということだが、植物が繁茂し独自の生態系を作り上げた世界には、それが言い過ぎでない魅力がある。二部では自我と知性を持ち人間に寄生して思考するアミガサタケが事実上の主人公であり最も共感しやすい存在であったため、再登場したときにはワクワクさせられた。でも、ワクワクしただけだった。この世界観ならもっとずっと面白いものが書けるんじゃないですかね……。2014/08/27