内容説明
生者はとどまらない。とどまるのは死者だけ。「能」の物語は、生きている「ワキ」と、幽霊あるいは精霊である「シテ」の出会いから始まる。旅を続けるワキが迷い込んだ異界で語られるのは、執心か、追慕か、残恨か…芭蕉の旅、漱石、三島に大きな影響を与えた日本文学の原点を、ワキの視点から捉え直す。脇役ではない、「ワキ」から見た能は深くてこんなにも面白い。
目次
第１章 異界と出会うことがなぜ重要か（定家；時空の歪みが能の物語を引き起こす ほか）
第２章 ワキが出会う彼岸と此岸（無力なワキ；「旅」がワキのキーワード ほか）
第３章 己れを「無用のもの」と思いなしたもの（「空洞」な旅人；敦盛 ほか）
第４章 ワキ的世界を生きる人々（ワキ的世界に入れる人、入れない人；松尾芭蕉の旅路 ほか）
著者等紹介
安田登［ヤスダノボル］
１９５６年千葉県生まれ。下掛宝生流ワキ方能楽師。ワキ方の重鎮・鏑木岑男師の謡に衝撃を受けて、成人してから入門する。国内外を問わず舞台をつとめ、小学生から大学生までの創作能、ワークショップ、朗読ライブも頻繁に開催している。また、身体のバランスを整えることを目的とする米国のボディワーク・ロルフィング施術者（ロルファー）でもある（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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壱萬弐仟縁
15
ワキは横（１８頁）。シテは主役（１７頁）。「ワキの祈りがシテを救う」（１６０頁～）。脇役が主役を救う、とは。支える者が、支えられる者を支えるのか。途上国が先進国を支えている。貧乏人が金持ちを支えている・・・。従属者が支配者を支えている。こうした支配者の権力構造を、能に見えるのは意外である。もっといえば、９９％が１％を支えるのだから、格差の極み。今、参院選で日本の政治舞台は、ネット上でも戦われている。しかし、支配されている脇役の多くは、投票すらしない、シラケムード。シテの政治家はワキを小ばかにしないように。2013/07/19
R As Well
3
面白かった。物語の主人公について、なぜ彼らばかりが不思議な出来事に遭遇するのか、言い換えれば、なぜ自分は不思議な出来事に遭遇できないのか。能において、まさに「不思議な出来事に遭遇する」役割であるところの「ワキ」に注目してその性質を解説していく。Twitterではよく「無職でなくなって面白くなくなった」というような言説が聞かれるが、異世界に遭遇するための条件であるところの「漂泊」がまさにそこにあるのかもしれない。2018/07/29
13km
2
ただの脇役か進行役だと思っていたワキにそんな深い意味があったとは驚き。人生観や世界観が少し変わってホームレスの人たちが聖人に見えそう。でもこれってトランスレートだからあんまり意味ないのかも。トランスフォームするには外圧が必要、日本も何度か外圧によってトランスフォームしてきたという話は納得。旅にでたい。2013/07/21
kinoko-no
2
何度かお能を見る機会があったが、こんなに面白いものだとは知らなかった。夢幻能を中心に異界のもの（シテ）と出会うワキの「無為の為」。生まれついた家の家業のために、あの世に行ってまでも苦しめられる猟師と殺される鳥の殺害時のどろどろとした怨念がすさまじい『善知鳥（うとう）』や、「思い切り」、自分の腹を割いてまで夫と子供のために珠を持ち帰ろうとする『海女』のお能を見たいと思った。2010/01/23
多分、器用です
1
能とは異界を感じること！こんなこと言われたら断然、能にきょうみが湧いてきた。機会があったら是非、鑑賞したいと思う。2012/11/28
