内容説明
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず…の有名な書き出しで始まる『方丈記』。世の中を達観した隠遁者の手による「清貧の文学」は、都の天変地異をルポルタージュのような手法で記録した「災害の書」であり、また著者自身の経験や暮らし、人生観を綴った一人語りの「自分史」でもあった。先の見えない激変の時代のいま、日本人の美学=“無常”の思想を改めて考える。
目次
はじめに 八百年目のツイート
第1章 知られざる災害文学
第2章 “負け組”長明の人生
第3章 捨ててつかんだ幸せ
第4章 不安の時代の生き方
読書案内
鴨長明略年譜
寄稿 玄侑宗久「風流」の境地へ
著者等紹介
小林一彦[コバヤシカズヒコ]
1960年栃木県生まれ。京都産業大学日本文化研究所長。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院後期博士課程単位取得。洗足学園魚津短期大学、京都産業大学文化学部教授などを経て、現職。専攻は和歌文学・中世文学。和歌文学会委員、中世文学会委員、日本文学風土学会理事、方丈記800年委員会委員。教育・研究のかたわら、古典の魅力をわかりやすく伝える講演活動にも力を入れており、古典の語り部として各地を歩く(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しゅてふぁん
28
『方丈記』は災害文学であり、非常に人間くさい世捨て人の本であり、断捨離本のルーツである。災害の部分は新聞記者が現場を取材した報道記事と遜色ない出来だとか。長明が全てを失っていく過程では、もうちょっと頑張ろうよ、と思ってしまったけれど(笑)親族のバックアップなく、有力者からの依頼により執筆したわけでもない『方丈記』が800年後の現在まで残っているのは名著だから。うん、納得。2017/10/23
mm
17
テレビでは100分かけて解説してる?読んでもたぶん100分くらいだったような…方丈記を鴨長明の自分史として捉え、書いた動機、誰に向けて書いたか、彼の関心はどこに重点があったかなどをわかりやすく説明してくれている。そして彼が生きた時代背景、生い立ち、数々の挫折から彼の性格のようなものを推理している。故に執着を断つ事を目指しつつ、完全に執着を捨てきれなず疑問を持ちつつ筆を置く終わり方がとても人間的で良いと思った。ミニマリスト的、スローライフ的、仏道修行的でありながら、啓発本の押し付けがましさがないのが◎2017/06/18
黒頭巾ちゃん
14
飢饉、火災、地震を機に書かれたものです。父の死により没落した筆者は、「執着せずに孤高に生きることがよい」とします。都会に住めば人との付き合いやもらい火事で煩わしく、物を持てばもっと欲しくなる。独身だと軽く見られ貧しければ恨みがましくなり、頼れば支配されとこの世は生きにくいからです。田舎の庵で独り暮らしをし琵琶で生活します。結局、人は執着せずにおられない。だから、自然に身を任せゆらりと生きていくのです。2016/06/03
江藤 はるは
7
過去を知ることは、未来を知ること。2020/05/05
ドルーク
7
地位、名誉ある生まれながら、家族と折りが合わず。若くして五度も大災害、飢饉などに見舞われた。後鳥羽上皇に見込まれ、寄人となるも去ることになる。源実朝との和歌談義相手となる話も消えてしまう。自身を「要なきもの」と思ってしまう。どんな場所、仕事でも不安は絶えない。狭い家で、自然に囲まれて、自分のことは自分でするシンプルな暮らしこそが心の平穏(成功者への復讐の意味合い)。しかし、その平穏な暮らしが「執着」になってしまい、それは仏教では「障り」。平穏な暮らしという信念も曲げて深く反省する。コメントへ↓2020/04/15