出版社内容情報
近代小説の出発点『ボヴァリー夫人』を読みながら,小説の技法・修辞学のすべてを,ヨーロッパ文学の流れのなかで鮮やかに読み解く.小説の面白さ,文学の豊かな可能性を魅力的に語る新しい入門.「大学」という制度のなかの文学研究を脱構築する意欲的試み.
内容説明
「小説とは何か」という問いを導きの糸として、『ボヴァリー夫人』を読む。各章は「小説というもの」をめぐる素朴な疑問から出発して物語を読みすすみ、最後に文学作品の生産と消費の形態を歴史的な視点から概観するという方向で、全体が構成されている。
目次
1 タイトルと固有名
2 序文のない小説
3 僕らは自習室にいた
4 視点と描写
5 男が女に出会うとき
6 季節はめぐる
7 恋愛と小説
8 農業共進会
9 エロス的身体について
10 自由間接話法と紋切り型
11 小説を読む
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ラウリスタ~
12
これはタイトルで誤解されていそうだが、かなり本格的な『ボヴァリー夫人』入門だ。フロベールで卒論を書きたい人とかは、まずこれを読んで芋づる式に参考文献にアタックすると良いだろう。農業共進会の場面は、分かったつもりだったけど、理解が浅かったなと痛感。かなり際どいジョークを連発しているので、おそらく大学の授業ではあえて説明されない部分もあるだろう。視点や話法など、ジュネットの物語論、性的な水滴というリシャールのテーマ批評など、フロベール研究に限定せず、基本的な文学研究のアプローチが紹介されるので、文学部生必読。2022/07/23
ra0_0in
4
工藤庸子さんは、文学研究者の中でも本当に「小説が読める」人の一人だと思う。新書では物柔らかで分かりやすい語り口だったが、こちらは東大出版ということでややアカデミック。バフチンがフロベールの自由間接話法をブルジョワへの憎しみ(批評性)と愛(感情移入)のない混じった表現と喝破したように、リアリズム小説が単に写実ではなく「エロス的身体」の表現手段であることを説得的に論じている。イギリス=ノヴェル中心の小説史を『クレーブの奥方』や宮廷ロマンスをも内包し得るフランス=ロマンの視点から書き換える可能性を論じる終章も◯2014/04/26
FA743
3
テクスト分析の着眼が参考になる。エンマの背中にシャルルの身体が触れたとき、エンマの過剰な反応の理由とか。そこまで読み解いて初めて理解できるんだと気づかされて勉強になる。2015/08/17
yucat810
1
幅広い視点から読まれており、文学批評の入門としても面白かった。 水へ溶けて一体化したいという感覚はウルフには引き継がれているように思う。