出版社内容情報
「風の歌を聴け」執筆直後、村上春樹が出会ったアーヴィングのデビュー作。むせ返るような想いが立ちのぼるパワフルな青春小説。
内容説明
既成の文学観の埒外とも言うべき、アーヴィングのマッシブな小説世界はここから始まった―骨太、大胆、エキサイティングで予測不能。傲慢なまでの若々しさと、青春小説の特別な輝きに満ちたデビュー作。
著者等紹介
アーヴィング,ジョン[アーヴィング,ジョン][Irving,John]
1942年、ニューハンプシャー州生まれ。レスリングのコーチ、バーテンなどを経て、二十六歳で出版した本書『熊を放つ』で作家としてデビュー。78年刊行の『ガープの世界』で現代アメリカを代表する長篇小説家としての地位を確立する。O・ヘンリー賞、全米図書賞のほか、映画化された『サイダーハウス・ルール』では自らアカデミー脚色賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ドン•マルロー
29
一言でいえば冗長で荒削りな作品だ。最もそれが唯一にして最大の魅力なのかもしれないが。第一章は風変わりな青年ジギーとの出会いと無謀なバイク旅。ばりばりのロードノヴェルで幕をあける本作であるが、第二章になると様相は一変する。ジギーのノートブックに綴られた二つの物語ーーナチス時代と動物園偵察ーーが交互に語られるのだ。それらは時代も人物も異なることから何らの連関も持たないように思われる。弱者と強者、抑圧される側とする側という対蹠的関係がはっきり提示されている以外には。得体の知れぬ力に突き動かされるように下巻へ。2016/04/21
春ドーナツ
18
「良き習慣は狂信的になされるだけの価値がある」(11頁)私の喫茶店通いはファナティックである。1年の内361日はそこで本を読むからだ。「良き」なのかはわからない。ホースラディッシュを丸ごと齧ったことはないけれど、印象的な冒頭です。ジギーは天性の詩人だ。「運命はじっと待っている/人が走ろうが/人が止まろうが/運命にとっては、同じこと」(101頁)そして可能性を貪欲にパクパク食べて消費する現実。いつしか我々は「やれやれ」とぼやいて器用に世界をやり過ごすことを学ぶだろう。闘牛士のように。若い頃は無視したけれど。2019/11/03
スミス市松
16
あえて言えば、『熊を放つ』は精読する類いの小説ではないと思う。情景が思い浮かばなければそれでいい。凡長なところは一読してさーっと進んでしまえばいい。なぜなら、そうやってガンガン読んでいくことで見えてくる風景があるからだ。掴みとれる魂があるからだ。私は本書を読んで、自分が「物語の力」によってあたためられていくのを強く感じた。それはパチパチと音を立てて、私たちの居場所を夜通し照らし続けるあの炎のあたたかさだ。(続)2011/06/05
ぐうぐう
14
なんとも形容し難いアーヴィングのデビュー作。しかしそれこそが、若きアーヴィングの企てなのだと思う。未熟さゆえのゴツゴツとした荒っぽさと同時に、新しいものを生み出そうとするアーヴィングの、強く大胆な志しが、全編を通して炸裂している。物語半ば、まだワケもわからないというのに、この小説には抗えない魅力がすでにある。2010/09/01
seimiya
6
アーヴィングのデビュー作。とりとめがなくて奇妙な話、というのが上巻の印象。第一章は、主人公グラフとジギーの旅の話。知り合ったばかりの青年同士、行先を決めないオートバイでの気ままな二人旅。男性は身軽でいいなーと思う。第二章は、ジギーの『ノートブック』の記述。彼の自伝と、動物園の偵察記録。第一章では掴み所のないジギーのキャラクターが、少しだけ掴めたような、掴めないような。下巻へ続いているので期待しよう。動物園で思い出したのは昔読んだ伊坂幸太郎の短編。詳細は忘れたけれど、空気感だけ覚えている。2013/06/19