内容説明
最初の数行でその世界は完璧に提示される―。絶望のなかに漂うおかしみ、名状しがたい人生への不安とささやかな温もり。全米図書賞候補作となった処女短篇集より、表題作を含む九篇に、訳者による作品解説を付す。
著者等紹介
カーヴァー,レイモンド[カーヴァー,レイモンド][Carver,Raymond]
1938年、オレゴン州生まれ。製材所勤務、病院の守衛、教科書編集などの職を転々とするかたわら執筆を始める。77年刊行の短篇集『頼むから静かにしてくれ』が全米図書賞候補、83年刊行の同『大聖堂』が全米図書批評家サークル賞及びピュリッツァー賞候補となる。その独特の味わいの短篇作品はアメリカ文学界に衝撃を与え、後進の作家にも大きな影響を与えた。数々の短篇作品のほか詩人としての作品も多数。88年、肺癌のため死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
74
「他人の身になってみる事」は「隣人」ともリンクしているのかしら。ともあれ、謂れもないようで実は犯したかもしれない事で一方的に責め立てられるのは怖いことだ。「合図をしたら」は楽しくしようとしているのに水を差し、いつも不満げで傍にいるだけでも砂を噛んだような気分になる、嫌味な夫って本当にいる・・・。でもこういう男に対して「この人を理解できるのは私だけなんだ!」って思って選んじゃって結局、溜息をつきながら生活していくから女ってちょっぴり、不毛なんだよね。「嘘つき」の母親の不安と孤独には胸が突き刺さりました。2016/10/09
nobi
72
高学歴高収入でも、日々の生活に困るのでもなく、大概二人の子供がいて、クリームソーダとポテトチップとポプシクルと少しのビールで、刹那的で他愛もない会話をする。そこに飽きたら引っ越せばいい。代々続く家柄という軛も人種的劣等感も未来への憂いもない。今があるだけ。60〜70年代のアメリカの多くの夫婦はこんなだったんだろうか。気楽な会話の先には、不穏な影が、影に留まらず事件が生じる情景も。その時は文体も緊迫する。思わぬ身の震えが隠れていた不安を炙り出し、葬っていた過去が感情の制御を突き崩す。まれに良心が立ち上がる。2023/03/12
jahmatsu
43
古本屋の100円棚から救出本。100円でカーヴァーを読める幸せ。毎回同じ感想だがやっぱりイイは、カーヴァーは。2020/06/21
Y2K☮
38
短編小説を書きたくなる短編集。でもこんな風には中々書けない。表題作は偶然の巡り合わせからいちいち神経を脅かされてしまう描写に芥川の「歯車」を感じた(全く違う話だけど)。「他人の身になってみること」も奇妙。何かが微かにずれている。芥川「蜃気楼」みたいに内面が静かに壊れているわけではなく、平常運行で関節が捩れている様な。「ジェリーとモリーとサム」は題からして不可解。「こういうのはどう?」のラストは少し分かる。あそこでハハハと笑える男ならもっと幸福なのだ。全体的にはⅠの方が好きな作品が多かったがクセになるB面。2019/02/22
速読おやじ
29
”どこにでもいるごく当たり前の、良心的に生きようと努力している筈の人間が、何かの原因によって、人生の落とし穴に落ち込んでいる風景”がカーヴァー的世界だと訳者は言う。カーヴァーの作品には、アルコール中毒、破産、妻の不貞といったような事がたびたび作品に出てくる。自分には全く関係ないと思いながら、自分にも降りかからない可能性が絶対に無いと言い切れるのか?と思わせるようなリアリズムが襲ってくる。それでも、ささやかだけれども、「温もり」がある。そのバランスがとても微妙で、読者を惹きつけるのだ。2013/08/08