内容説明
リヒテル、ミケランジェリ、アルゲリッチ、フランソワ、バルビゼ、ハイドシェック。二十世紀の演奏史を彩る六人のピアニストの隠れた本質を、鋭い観察と筆致で、鮮やかに解き明かす。同じピアニストとしての共感と洞察力ゆえにせまり得た、名演奏家の技と心の秘密。
目次
負をさらけ出した人―スビャトスラフ・リヒテル
イリュージョニスト―ベネデッティ=ミケランジェリ
ソロの孤独―マルタ・アルゲリッチ
燃えつきたスカルボ―サンソン・フランソワ
本物の音楽を求めて―ピエール・バルビゼ
貴公子と鬼神の間―エリック・ハイドシェック
著者等紹介
青柳いづみこ[アオヤギイズミコ]
ピアニスト・文筆家。安川加壽子、ピエール・バルゼビの両氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院首席卒業。東京芸術大学大学院博士課程修了。1989年、論文「ドビュッシーと世紀末の美学」により、フランス音楽の分野で初の学術博士号を受ける。90年、文化庁芸術祭賞受賞。演奏と執筆を両立させ、著書には『翼のはえた指―評伝安川加壽子』(吉田秀和賞)、『青柳瑞穂の生涯』(日本エッセイストクラブ賞)、『六本指のゴルトベルク』(講談社エッセイ賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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くさてる
17
私はクラシック音楽にまったく無知で、ここに紹介されているピアニストたちの演奏も聴いたことが無い。名前も知らない。なのに、たいへん面白く読めたし、読後はそれぞれの演奏を聴いてみたいという思いに駆られた。それはやはり著者の門外漢にも開かれた分かりやすい文章によって語られる、芯を押さえた的確な批評が魅力的だったから。専門的に深いことが描かれている箇所で難解に感じる部分もあったけれど、それも含めて、ピアニストという存在の面白さだと思った。2015/10/12
胆石の騒めき
14
(★★★★☆)「普通のピアニストは、ありのままなんか語れない、次から仕事がこなくなるから」という言葉は、以前に読んだ「証言・フェルトベングラーかカラヤンか」の内容に通じる。ピアニスト視点のオリジナルな内容も多く、付箋だらけに…。晩年のピアニストを襲う聴覚の問題、ミケランジェリの自宅のピアノ、アルゲリッチの真実が特に印象的。個人的には、聴衆に恐怖を感じるピアニストより、聴衆と共に音楽を作り上げる才能を持ったピアニストの演奏を聴きにいきたいもの。しかし、「プロのピアニスト」の実像は、また異なっているのだろう。2018/07/09
まこ
9
著者自身もピアニストでその視点から見た、紹介する人物の手の動きや評論に対する分析も入れている。著者が実際に遭ったバルビゼとハイドシェックに関する章が思い入れもあってか読みやすい。バルビゼはデュオの相方との複雑な関係、ハイドシェックは当人のイメージや時代に合わない面もあり評価が微妙なこともあったとエピソードが濃い。2021/01/17
Motonari
4
この本は凄い本です!プロがプロを評論するというのは専門性が立ちすぎるとか、同業者なので変に持ち上げてみたり落としてみたり難しいんですが、作者は偉大な天才達の「天才さ」を客観的専門的に解剖して見せてくれながら、彼らのインタビューを交えて人間性を浮き彫りにしていくアプローチは素晴らしいです!我々はピアニストは軽々と演奏しているようにみえますが、常に「ステージフライトの恐怖」や「最高のパフォーマンスの次」と戦っているのを知るとまた見方が変わって来ます。 これからコンサートはドキドキして聞くようです!2014/01/31
木曽のあばら屋
4
ピアニストたちの人生・キャラクターについて語られる以上に、演奏法・解釈に関する分析が圧巻。イスの高さ、前腕の筋肉の使い方、指を曲げるか伸ばすかなど、ピアノを弾かない人間には「そんなのどーでもいいじゃん」なことについて、これでもかとばかりに語り倒します。でも、巧みな語り口のおかげで門外漢にとっても実にスリリングで面白い読み物になっています。一流ピアニストであると同時に文章の達人でもある著者にしてはじめて書けた本ですね。2010/09/05