出版社内容情報
急ぎの客には何の役にも立たないけれど――評論とエッセイ、エッセイと小説……その「はざま」にある何かを求め、注目の芥川賞作家が文学の諸領域を軽やかに横断、本領発揮の散文集。
内容説明
評論や小説やエッセイ等の諸領域を横断する散文の呼吸。それぞれに定められた役割のあいだを縫って、なんとなく余裕のありそうなそぶりを見せるこの間の抜けたダンディズムこそ“居候”の本質であり、回送電車の特質なのだ―枠組みを越え、融通無碍に文章を綴る著者の、軽やかで、ゆるやかな散文集。
目次
回送電車主義宣言
贅沢について
引用について
誕生日について
梗概について
三行広告について
方眼紙について
壁の割れ目からのびた木の根について
さびしさについて
引っ越しについて〔ほか〕
著者等紹介
堀江敏幸[ホリエトシユキ]
1964年岐阜県生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退、パリ第三大学博士課程留学。1995年、『郊外へ』で小説家としてデビュー。1999年、『おぱらばん』で第一二回三島由紀夫賞、2001年、「熊の敷石」で第一二四回芥川賞、2003年、「スタンス・ドット」で第二九回川端康成文学賞、2004年、『雪沼とその周辺』で第四〇回谷崎潤一郎賞、および第八回木山捷平文学賞、2006年、『河岸忘日抄』で第五七回読売文学賞小説賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
189
「小説でも評論でもエッセイでもない偏狭な文章」と自ら語るごとく、本書は確かにジャンルに分けることの困難な散文群の集積だ。ただ、それらには一貫して著者に固有の感性が息づき、良質の小説から漂う(しかし同時に「間の抜けたダンディズム」とする規定が肯けもするような)読後感に浸ることになる。そして、静かに語られる想念の随所から、軽やかなノスタルジーが立ち上り、それらは変奏を重ねていくのである。それは時には『トトロ』の三輪トラックであったり、故郷の川の風景であったり、はたまたパリの小さな本屋の光景であったりもする。 2014/07/07
KAZOO
52
随筆のようなものや短い小説のようなものもあり、この著者が様々なメディアに書いたものを1冊に収めています。また著者が読んだ本などについてもかなり書かれていて、好みがよくわかります。読んでいてゆったりとした気分にさせてくれる本です。2015/04/16
aika
47
書くことにつきまとう領分をするりと通り抜けた回送電車の穏やかな流れに、すっぽりとくるまれました。少年さながらトラクターや珍種の動物に並々ならぬ熱をもち、娘さんが学校から預かった赤ちゃんちゃぼとのお別れに寂しさを募らせ、不作のために売られて娼妓になる娘と若い青年との淡い恋を描いた瑞々しい小説を愛する堀江さん。パリ留学時代に、貧しい自分に全集を譲ってくれた書店主への恩返しや、「リ・ラ・プリュス」という煙草にまつわる誤認を素直に認め、真実を最後に明かしたその誠実さが目に留り、この作家の心を知れた散文集でした。2020/03/29
chanvesa
39
「回送電車主義宣言」からなるほどと思う。確かに回送電車の運転手さんは通常運行の電車の運転手さんとは何か気分的に違うのではないかと思わせる。「猫のいる風景」は『おばらぱん』の「のぼりとのスナフキン」でも語られていた漂白者としてのスナフキンへの愛が語られていたが、それの応答になるかのよう。「Eメールの効用」はウイットに富んでいて素敵なお話。2017/01/04
メタボン
35
☆☆☆☆ 小説のようなエッセイ。文章が美しく、噛み締めるように読んだ。「回送電車こそ、永遠に見つからない逃避への道を探っている寂しい漂泊者の似姿なのかもしれない」。紙巻煙草の発音をめぐる裏話が面白かった(友人が吸っていたリ・ラ・プリュスという紙巻煙草は大麻の符牒であり、煙草はリ・ラクロワ)。2023/01/23