内容説明
軍国主義の気運に伴い、時局に便乗して日本精神を鼓舞する画題を描きつづけた画家・小野。その過程で恩師も弟子も裏切ることになった過去の過ちと責任を、いま彼は率直に認めてはいるが…。第二次大戦後まもない頃の日本を背景に、急激な価値転換の中で精神的拠りどころを求める一人の芸術家の苦悩を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
rokoroko
14
私は好きになれなかった。戦後の古い映画[東京物語」とかを見ている気がした。日本人の名前なので日本の作品だと思っちゃいけないのね2018/05/17
Acha
9
卒論の頃以来だから、もう相当久々に再読。自ら引いたはずの傍線も眩しい(笑)。イシグロはヒトの記憶が作り出す表情を、ぼんやりとしか映さない。その不誠実さは重々承知しているので、もちろん語り手である主人公を疑いつつ、頼りない薄氷をそっと渡る気持ちで読み進む。テーマから全体的に悲哀漂い、ついフォウジタまでイメージ重ねるに読んでて辛いが、ラストは意外に光が差す。ああ、やっぱりこのしっとりした世界、仄かな陰影が作り出す映し絵のような情感が好きだー。全く同じように高揚してた昔の自分を思い出し、ひとり照れたのも愉し。2020/04/26
shikashika555
9
TVドラマを見てしまったので、主人公が渡辺謙でしかイメージ出来ない(><) 自分に対する世評がくるりと入れ替わった事に気付けないために、違和感を感じ続ける。 大切なものを守るために、世評と同化し 自己の行為を批判する。受け入れられたかに見え、痛みを押して自己変容を遂げたことをよかったことと受け止める。 いつの間にか 世は少しずつ変容を遂げ、気付かぬうちにまた自分は責められない場所に居る。 世評もまた、人間と同じく 不確かで頼りないものであるのだ。絶対的な正義など そこにはないのだ。 2019/05/31
くれの
7
WW2終戦により価値観を喪失した彼もまた呵責に苛まれ、戦争の悲しい一側面を見ました。画家として行き場を失った自らを正当化することで生きて行けたのも現実で読後彼を臆病者と非難できない自分をふと省みました。2017/10/30
HH2020
5
◎ じつを言うとノーベル文学賞を受賞するまで彼のことを知らなかった。受賞の一報を聞いてすぐさま図書館にリクエストして待つこと1か月、ようやく手にした。読み始めてすぐにカズオ・イシグロの文体が私の嗜好にぴったり合うことに気付いた。もちろん訳者の感性も含めてのことだ。ノーベル文学賞の受賞者としてメディアに登場する機会も多くなり、その人柄も知られてきた。知的で静謐な語り口はまさにこの小説の文体に表れている。カズオ・イシグロの発見は私にとって今年最大のエポックとなった。2017/12/12