内容説明
平安時代の婚姻制度は法的に一夫一妻制であり、正妻とそれ以外の女性たちとの間には立場・社会的待遇に大きな差があった。恋愛譚としての『源氏物語』は、正妻の座をめぐる葛藤がストーリー展開の要となっており、婚姻制度への正確な理解を踏まえてこそ、はじめて紫の上、明石の君ら、作中人物の心情を深く味わうことができる。一夫一妻制をキーワードに『源氏物語』の構想を読み解く、かつてない試み。
目次
第1章 平安時代の婚姻制度―『源氏物語』理解のために
第2章 婚姻制度と恋愛物語の型―母親の立場による物語構想の制約
第3章 光源氏をめぐる女性たち―若紫との新枕まで
第4章 明石の君―紫の上を守るための構想
第5章 藤裏葉巻の源氏と紫の上―准太上天皇と輦車の宣旨
第6章 第二部の婚姻関係―正妻女三宮と紫の上
著者等紹介
工藤重矩[クドウシゲノリ]
1946(昭和21)年生まれ。九州大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。福岡教育大学教授を経て、福岡教育大学名誉教授、福岡女子大学客員教授。博士(文学、九州大学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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帽子を編みます
57
知的刺激を受ける本です。一夫一妻制をキーワードに『源氏物語』の構想を読み解くとの惹句の通り平安時代の婚姻制度を一夫一妻制とし正妻とそれ以外の女性との差を述べています。そしてその立場で物語の構想を解釈していきます。筆者も述べる通り、紫式部の構想がすごい、桐壺巻執筆時にあらかじめ予定されていた着地点に人物、出来事を説得力を持って緻密に構成しています。筆者の取り上げる例に(現代人としては)驚き、唸らされます。男親の後見、身分が人を定め、それを動かす、(当時の人ならば)当然とした前提を丁寧に教えてくれます。2021/06/24
かごむし
24
源氏物語を読む資料にと思って買ったけど、読了前は開かなかった本。源氏物語の中の結婚制度について大枠の理解は外していなかったということに安心をした。ぼんやりした理解がくっきりした部分はある。著者は、基本的な物語の展開、着地点から、結婚制度を通して逆算していったときに、ここでこの人はこういう性格に設定せざるを得なかった、とか、この人は物語の目的のためにここで退場させられたとか書いてて、言いたいこともわかるし理にもかなってるけど、うるさーい!とは思った。ネタバレがすごいので、源氏物語の予習にはむかない本。2015/12/13
ヒロミ
19
面白かった。一気に読めました。源氏物語の特に紫の上にスポットを当て、平安時代は一夫多妻制ではなく一夫一婦制で正妻の立場は揺るがないものだった…という立場から考察してゆく本です。紫の上が正妻じゃないのは知ってましたが、平安時代も正妻は重んじられていたというのが意外で、一生涯を妾(しょう…正妻以外の妻)として過ごした紫の上の身の上に同情しました。フラットな語り口もわかりやすい本でした。2015/02/19
南北
17
平安時代の婚姻制度は一般に一夫多妻制と言われていますが、著者は一夫一妻制であると主張しています。通説は律令の規定が空文であると主張していますが、嫡子と庶子の出世のスピードから見ても、一夫一妻制が正しいと納得できる内容になっています。後半は源氏物語を例にとって、一夫一妻制ほ論証していますが、フィクションであっても読者に納得させるには当時の常識とかけ離れた内容にはなり得ないことをわかりやすく解説しています。物語を作る作者の側から源氏物語の構成を解説していくところは興味深く感じました。2018/11/23
びっぐすとん
15
図書館本。平安時代の結婚形態は一夫多妻なのか一夫一妻なのかを源氏物語を通して検証しているが、この本の言うように圧倒的立場の正妻とその他妾というのが正解なのかな。昔から光源氏の女君たちの扱いに怒りを感じていたし紫の上も好きじゃないけど、当時の女は悲しいな。結局後見のしっかりした内親王に生まれ結婚しないのが生き甲斐は別として一番良さそう。紫の上にアメと鞭を交互に与える紫式部からして正妻ではなかったことを考えると、妻という座は現在より得難いポジションだったんだな。あの源氏ですら愛だけじゃ正妻に出来ないんだから。2019/02/19