出版社内容情報
廣瀬武夫、橘周太、爆弾三勇士……戦争によって強まった一体感の中から生まれた彼ら「軍神」を鏡として、戦前日本社会を照射する。
内容説明
かつて「軍神」と呼ばれる存在があった。彼らは軍国主義的思潮の権化として意図的に生み出されたわけではない。日露戦争における廣瀬武夫少佐の例をみればわかる通り、戦争によって強まった日本人の一体感の中から、期せずして生み出されたのである。だが、昭和に入ると、日本人が共感できる軍神像は変化し、それは特攻作戦を精神的に支えるものとなる。本書は、軍神を鏡として戦前の日本社会の意識を照射する試みである。
目次
第1章 軍神の誕生―廣瀬武夫と橘周太(旅順口閉塞作戦;廣瀬少佐の戦死;橘少佐の戦死;万世橋の廣瀬像)
第2章 明治の軍神―乃木希典(意想外のできごと;錯綜する評価;欧米諸国の目;士風頽廃への危機感;一つの時代の終わり;神社に祀られる軍神たち)
第3章 軍神にならなかった軍神―爆弾三勇士(新たな英雄の誕生;少年少女の熱狂;陸軍工兵中佐の異議;銅像になった三勇士)
第4章 昭和の軍神たち(地味な軍神たち;特別攻撃隊と空の軍神;山本元帥と山崎軍神部隊;軍神の終焉)
著者等紹介
山室建徳[ヤマムロケントク]
1954(昭和29)年、東京生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。帝京大学理工学部講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tomoichi
19
軍や国家が作り上げたものと思い込んでいる人も多い「軍神」。その発生から消滅までの歴史を当時の資料から多面から考察する。著者の歴史を見る姿勢は多分に共感できます。現代という神の目で歴史を見る愚を我々は侵しては「正しい」歴史を知ることはできない。2019/09/13
ちゃま坊
11
軍神は日露戦争の時から始まった。戦死した海軍広瀬武夫が軍神となり万世橋に銅像が建った。対抗するように陸軍の橘周太も軍神に。陸軍大将乃木希典と海軍大将東郷平八郎は戦死ではないが、死後赤坂と原宿に神社ができ。陸軍大将児玉源太郎は江ノ島に神社ができた。昭和の戦争では真珠湾の九軍神、加藤隼戦闘隊の加藤少将、連合艦隊山本五十六提督ら多くの軍神が生まれた。軍人を神として祀り上げるのは、軍部がマスコミを使って国民を洗脳するためのものであろう。敗戦後日本軍と共に銅像も消滅した。2018/06/03
りぃ
2
広瀬・橘両中佐に紙幅を費やしている一方、数が相当増えるとはいえ一般に知られている「特攻」があっさりなのはどうなんだろう。「九軍神」から漏れた酒巻少尉について、また、「生き神」としても、乃木希典の対比としても東郷平八郎を扱うべきではなかっただろうか。2010/09/18
tsuyoshi1_48
2
「軍神」なるものの形成過程を、その時代背景や国民感情と関連させて叙述。明治と昭和で、国民が共感を寄せる「軍神」像に、明白に差異があり興味深いです。爆弾三勇士などはその存在は知っていたもの、背景事情を体系的に知ったのはこれが初めてでした。新書にしてはボリュームがあります。2010/04/04
OKB
1
著者があとがきで告白するのと同様に、軍神というテーマは小論で済むように読書前は思っていた。だが、軍民関係やナショナリズムを考える上で看過してはならない対象であることを認識させられた。いずれ再読したい。