内容説明
徳川秀忠の子でありながら、庶子ゆえに嫉妬深い正室於江与の方を怖れて不遇を託っていた正之は、異腹の兄家光に見出されるや、その全幅の信頼を得て、徳川将軍輔弼役として幕府経営を真摯に精励、武断政治から文治主義政治への切換えの立役をつとめた。一方、自藩の支配は優れた人材を登用して領民の生活安定に意を尽くし、藩士にはのちに会津士魂と称される精神教育に力を注ぐ。明治以降、闇に隠された名君の事績を掘り起こす。
目次
第1章 家光の異母弟として
第2章 将軍家綱の輔弼役
第3章 高遠・山形・会津の藩政
第4章 その私生活
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
背古巣
33
冲方氏の「天地明察」「光圀伝」を読んでいて保科正之に興味を持ちました。ちょっと持ち上げすぎのような気がしないでもないですが、名君であったことは間違いないと思います。何故これほどの人物が、学校教育で教えられず、歴史的にそんなに有名でないのか?この本の最後の方で著者が言っている事ではないかと思います。興味深い読書でした。2019/02/15
だまし売りNo
10
名君と言えば謹厳実直な人物という印象があるが、保科正之は実利思考であった。 保科正之は市場原理を重視している。明暦の大火後に米の値段が上がった。これに対して幕府は江戸参勤中の大名を帰国させ、これから参勤する大名には参勤を延期させた(65頁)。需要を減らすことで米価を下げる政策である。ナイーブな心情的には明暦の大火という非常事態の後には多くの人を集めたいものであるが、それで江戸の人口が増えたら、米不足に拍車がかかる。 2018/10/27
はちこう
9
保科正之の継室おまんの方は松姫の毒殺を謀るが、この時お膳がすり替えられ実の娘の媛姫が亡くなってしまう。この話は媛姫の死から百年以上後に会津藩史に書き加えられた文が出所らしいが、著者は、先日読んだ「名君の碑」でも、この新書でもおまんの方の陰謀としている。個人的にはこの説はあまりにも怪談じみていて史実ではないと思っているが、今となっては真偽不明だ。小説なら劇的にするためやむを得ないとしても、新書の場合は断定せずに「こういう言い伝えがある」とした方が良かったのではないだろうか。2022/07/18
おらひらお
9
1995年初版。江戸前期の名君の一人である保科正之を取り上げた本。ただ、小説的な筆致がややつらいところ。しかし、幕末までは国内に広く知られた人物でしたが、戊辰戦争の結果、意図的に等閑視されている状態が続いているそうです。再び光を当てるという意味では、価値がある本だと思います。2011/11/23
Ryuji
7
★★★★☆徳川三代将軍・家光の異母弟である保科正之の生涯とその業績について書かれた本。書かれている内容に真新しいものは無い(それだけ正之に関する史料が無いということだろう)が、あらためてこの人物の名君ぶりが実感できる。家光の代まで続いた武断政治を文治政治に転換させた立役者であり、将軍家を支えた名補佐役である。筆者があとがきに書いていたが、これだけの人物が現代の世にあまり知られていないのは明治維新政府にとって敵の象徴である会津藩の藩祖であることと無縁ではないだろう。2014/01/11