感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
安南
14
17世紀、神聖ローマ帝国を舞台にした小説『聖餐城』を楽しむために。主人公の恋する少女が刑吏の娘という設定なので。かつて神聖な儀式であった処刑が、12〜13世紀頃から「名誉をもたない」賎民の仕事に変わっていく、職業としての刑吏が出現し、彼らは蔑視され激しい差別を受けるようになる。その蔑視、差別の根元は何かを探る、スリリングな研究書。いつも思うけれど、阿部氏の文章は読みやすく飽きさせない。資料のつもりで斜め読みするつもりが、しっかり読み込んでしまいました。2013/04/22
サアベドラ
13
中世ドイツの刑罰と刑吏を取り巻く社会史。『ハーメルンの笛吹き男』で有名な阿部謹也の初期の著作。1978年刊。中世初期の刑罰には古ゲルマン的儀式性・宗教性が見られたが、時代が進むにつれてそれらが失われ、同時に刑吏に対する人々の眼差しは尊敬から軽蔑へ変化し、後期には棺も担いでもらえない立派な賤職にまで堕ちてしまったというお話。基本的にドイツの先行研究の受け売りで、今から見るとそこまで断定して大丈夫なの?と言いたくなるような記述も見られるけど、社会史が珍しかった当時の日本では斬新で新鮮と受け取られたのかな。2013/12/16
日の光と暁の藍
7
中世の刑吏には、一つの物語があることを知る。中世において、「特定の職業の担い手が差別の対象とされ」(P15)ていた。日本でいえば、非人と呼ばれた人々。ヨーロッパの場合は刑吏がそうであった。刑吏の子は刑吏以外の職業に就けなかった。また、刑吏の子の出産や刑吏の埋葬を手伝う者は賤民に落ち、同職組合(ツンフト)から除名されたという。阿部氏は本書で、かつて神聖な儀式であった処刑が、なぜ卑賤な行為へと変化したのか、を先行研究を批判しつつ、刑罰、平和と秩序、キリスト教の普及などの概念から明らかにしようとしている。2014/08/02
スズツキ
5
これが今月のベストでしょうか。刑吏という職業を通しての中世の世界像を描いていく。実に興味深いのが日常的に賤視され権利すら持たない刑吏の人々が、裏では民衆に請われるほど様々な業務を併業し、かなりの資産を持っていたということ。またその行い故に人体にも精通しており、結果として医者としてもかなり有能だったという事実も明かされる。中公新書の中でも名著と評判高い一作ですが、さすがの出来栄え。2015/05/22
ルナティック
3
これも昔に読破しました。便宜上今登録。いや~ちょいと古い資料かも?とも思いますが、やはりお見事。庶民が登場し、死刑制度のアレコレ・・・・ドイツがメインだが。挿絵もね、無茶苦茶イイのよ。刑吏を通して、当時の身分制度や差別にも言及。これはもう定番と言えばそうだが、そこは著者の文章の魅力で世界が広がり、私達を中世に招待してくれる。刑吏のことであり、決してありがたいご招待ではないが、ウキウキしながら招待を受けましょう。私の中では「アベキンさん」で通っている著者。まだまだ読むぞっと!2017/08/28