内容説明
平家から維新までの約七〇〇年間、天皇は武士に権力を奪われていた。しかし、将軍職や位階を授ける天皇は権威として君臨した―。このしばしば語られる天皇像は虚像でしかない。歴史を直視すれば、権力も権威もなかったことはあきらかだ。それでも天皇は生き残った。すべてを武士にはぎ取られた後に残った「天皇の芯」とは何か。これまで顧みられることの少なかった王権の本質を問う、歴史観が覆る画期的天皇論。
目次
第1章 古代天皇は厳然たる王だったか
第2章 位階と官職の淘汰と形骸化
第3章 時代が要請する行政と文書のかたち
第4章 武力の王の誕生を丁寧にたどる
第5章 悠然たる君臨からの脱皮
第6章 実情の王として統治を目指す天皇
第7章 南北に分裂しても必要とされた天皇制
第8章 衰微する王権に遺された芯
著者等紹介
本郷和人[ホンゴウカズト]
1960(昭和35)年東京生まれ。東京大学大学院情報学環を経て東京大学史料編纂所准教授。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。中世政治史、古文書学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Humbaba
9
現在とは異なる時間において何が起こったのか。それを想像することは愉しい作業であることは間違いない。実際に起こった出来事から考えて、その時の人物の気持ちを想像する。それも良いが、想像はあくまでも想像に過ぎず、証拠はどこにもない。歴史学問として考えるときには、そのようなものを切り離して、現代にまでの折っている証拠について、それが書かれた時代の背景を考慮して評価する姿勢が大切になる。 2014/04/17
akiakki
8
位階、幕府、戦国大名など時代ごとに天皇(朝廷)と相対する地位や権力から、当時の天皇はどう見えていたかを分析しており、その結果が「なぜ生き残ったか」の回答になっています。戦国大名は競って上洛しようとした=朝廷の権威を利用しようとした、のは今では間違った論説だと知ったのは個人的な収穫。全体的に文体が安定していないので、時々ひっかかる表現があった。2023/02/14
犬養三千代
8
鎌倉時代から室町時代にかけての天皇朝廷と武士たちとの鬩ぎ合い。そしてお互いの変化を従来の解釈ではなく解説。野卑で教養のない鎌倉武士は義満に代表される文化の保護者に。また、政権を取り戻そうとして(承久の乱)の敗北を経て天皇が処分され幕府にコントロールされるようになる。文化、情報、改元などが天皇の芯となる。御宇多天皇(息子)から亀山上皇(父)に乗り換えた藤原忠子って?肉親の相克はよくあることだと思った。 2020/02/09
まさにい
8
主に中世、特に鎌倉時代を中心に天皇の権威を解説。僕は鎌倉時代は、日本の所有権概念の曙と思っていた。たぶんこのことは間違いないと思うのだが、東国に幕府を開いた意味をこの本で知る。また、源平の戦いは、平家と源氏の戦いというよりも、どのように所有権を主張するのかの見解の違いからか。とにかく新しい視点を提示してくれる面白い本でした。また、文章に力がこもっていて、主張に迫力があったので著者のこの主張にかける情熱も感じられた。2019/10/13
むっち
7
「日本の場合は将軍と天皇という具合に権力と権威が分離していた」という「常識的」認識に対して果たしてそうかと疑義を呈して、批判を恐れず展開する論考は、専門の戦国武将のありように対する研究から得た実感からのものだろうととても納得できる。ただ、その後の武士の権力が最も先進的な統治の文化を京都文化に見出して天皇制が文化として受容されているあたりは、専門から外れているからなのか迫力がダウンした印象を持つ。2019/05/12