内容説明
余りにひたむきな愛の純情。それは悪魔の仕業なのか?愛は襲いかかり、愛は奪い去る。残されたのは生の苦悶、死の情熱とこの美しき一篇の哀歌。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
75
十八世紀中南米の海に面した女子修道院が舞台。序章から鮮明な映像が眼前に展がり謎めいたプロットに惹き込まれる。こんなに小説って面白い?何もかも知り尽くした案内人マルケスが修道院周りの径を、院内の部屋を案内し、修道院長の頑なな言葉を聞かせてくれる。図書室にある地球儀では“代々の地図製作者が肉筆で書き込んだ追加や訂正”の跡を指差したり。悪霊の仕業な訳ないと思っていてもシエルバ・マリアのどこかこの世を超えた存在には修道士デラウラでなくとも近づきたくなる。生き易いとは言えないけれど旺盛な生命力を感じる世界に浸った。2022/11/12
市太郎
71
狂犬病の犬に咬まれて悪霊憑きとなった少女と若き(そう若くもないが)神父の真実の純粋な愛の物語。読むのはそんなに大変ではないが中々難解である。宗教観がわからないし、結局何が言いたかったのだろうと思うと難しくなる。しかし嫌いではなかった。タイトルが好みだ。愛と悪霊とは同義語であるのか愛とは何か悪霊とは何かという事について思いを巡らせてみる。悪霊に憑かれた人間はその人自体でなく周囲の人こそ憑かれているかのごとく。愛に憑かれた人もそれに似たり。結局愛とは負であるし善でもあり、そのもの実態は誰にも見抜けないものだ。2014/07/20
nina
32
再読。初読から10年ほど経ち、記憶の中の物語のイメージと再読した後の感触のズレが楽しめた。再読前まではカトリックのイメージゆえか静謐さが支配する物語として私の中で記憶されてきたが、読み直してみれば静謐どころかあたりはカリブ地域特有の喧騒と熱気に満ち溢れており、そこで燃えるような赤銅色の髪の少女がアフリカの言葉で歌い踊り駆け回る様子が生き生きと描写されるあたりまさにガボさんならではだと、自伝を読んだ後はしみじみと思う。自由に生きることが許されなかった悪霊に支配された時代、ひとりの少女と男の愛の誕生の物語。2014/08/22
ミツ
26
“愛は襲いかかり、愛は奪い去る。残されたのは生の苦悶、死の情熱とこの美しき一篇の哀歌”カッコいい煽り文とタイトル。二十二メートル十一センチにおよぶ赤銅色の髪と少女の頭蓋骨が発掘されるところから始まる序文でもうつかみは十分で、その後の本編は、もちろんガルシア=マルケス風味ではあるけれど、極まっとうな純愛と悲恋の物語が描かれる。いつもの幻想じみた法螺話よりもむしろ、新大陸の持つ宗教や人種の混淆、複雑に入り組んだ関係性とその軋みが前面に出ており、そういう意味でもまっとうな作品であるが、やや物足りない感あり。2015/12/01
すーぱーじゅげむ
18
「悪霊憑きのシエルバ・マリア」を中心とした群像劇です。信仰、病、階級、混血、様々てんこ盛りでやっぱりすごい。やぶ医者の「幸福によって癒せぬものを癒す医術なし」というセリフ、大雑把だけど真実だと思いました。修道院長は悪役なのですが、「管理職としてメンドくさい問題を抱えたくない」原則のみで動いていて、マリアに対する差別感情や畏れがないことを途中で発見しました。2022/11/01