出版社内容情報
庭の雑草。初夏の枝豆。ちゃぶ台の夕餉。日常の細部と感情のディテールを繊細に描きだし、生きる歓びを発見する待望の短篇小説集。
まわりが闇でも、明りが灯っているだけでいい――。「その後」を生きる、家族の肖像。震災後の日々をともに過ごす同棲中の二人、震災の直前に九十一歳で逝った謹厳な父、被災地に暮しつづける酪農一家の、言葉少なにたがいを思いやる姿……。日常の細部と感情のディテールをリアルに描きだし、それぞれの胸に宿る小さな光、生きる意志を掬いとる。大地震を経て生きる日本人をつぶさに見つめようとする短篇集。
内容説明
同棲して2年になるふたりの震災後の日々―「助けて」。「お前には、迷惑をかけたな」といって91歳で父が逝き、葬儀の翌日、震災は起こった―「父」。被災地の酪農一家の、言葉少なに互いを思いやる姿―「団欒」。「その後」を生きる、家族の肖像―。大地震を経た日本人をつぶさに見つめ、『巡礼』の先にあるひそやかな希望を描きだそうとする六つの短篇小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あつひめ
79
変わらぬ毎日を変えてしまうような震災。その大きな津波のように日々の暮らしの中でも波が心を飲み込んでしまう。直接震災の様子を目の当たりにしたときの自分の小ささとか、無力感。誰しもが感じた事かもしれない。ほろ苦さが物語の中に潜んでる。でも、爽やかな香りが漂っている。読んでよかった。2014/07/11
なゆ
67
橋本さん初読みですが、全体的に静かで淡い印象。草食系男子現象とは何たるかについて考える『枝豆』や、なんか噛み合わない元同級生男女の『海と陸』も面白かったが、しみじみと良かったのが『団欒』。震災後5年ぶりに自宅で一家揃って食卓を囲む、そのちょっとぎこちなくにじみ出る嬉しさみたいな空気に、胸がぎゅっとなる。こういう家族、まだまだたくさんあるはずだと思うと。仕事やボランティアで現地に行き、無力感に苛まれてしまう人たちも多かったんだろう。登場人物が割とみんな感情が見えにくい、無表情なイメージなのが印象に残る。2015/07/16
ぶんこ
51
震災関連の短編集とは気付かずに読んでいました。 登場する主人公達に共感できず、外面ばかり気にしているのは疲れるだろうな、くらいにしか思っていませんでした。 深く読み込む力がなかったと、読後に皆さんの感想を拝見して思い知りました。 共感できたのが「団欒」だけだったの恥ずかしい事なのかもしれません。2015/11/07
昭和っ子
31
どの話も終りが明るいな、と感じた。震災の被害を直接受けなかった人達にも、日々の生活の中で感じていたちょっとした矛盾やこだわりみたいな物が、あの震災で露わになって、不安を感じて落ち着かない事もあったけど、それをそのままではしておかないと思わせる、それぞれが持っているしぶとい所が描かれていた様に思った。「団欒」は、ストレート過ぎるくらいの話なのに泣けてしまった。あの時から5年後の設定になっているのがミソだった。「枝豆」で、世間に流布するテキトーな解釈をよそに「モデラートな暴力が目覚める」という表現が良かった。2014/01/18
tokotoko
27
6つの短編からなる。東日本大震災前後の日々の生活、登場人物の気持ちがとても丁寧に、静かに描かれていて、空気まで伝わってきそうだ。震災が出てくる本は、重松さんの本に次いで2作目。重松さんは、「こんなこともできたのに」という抒情的な表現が胸にぐっと迫った。この作品は、震災の捉え方が少し違う。登場人物それぞれに受け止め方をまかせている、という感じがした。いろんな年代の人が、いろんな境遇で、いろんな場所で受け止める。そして進む。人間の強さがにじむ。「意志の光」(「団欒」より)という言葉が心にぽつんと残った。2013/10/05