感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
239
表題作は、ラディゲ17歳の時に書かれた最初の長編。「僕」が語る一人称体をとっているが、その主人公自身が17歳くらいである。歳上の恋人マルトと僕の恋の顛末が語られているが、その語りは、すべてが終わってからの回想なのである。すなわち、ラディゲの想像力は年齢をいともやすやすと超えて行くのだ。「愛情というものは二人の利己主義であり、一切を己のために犠牲にし、嘘で生きるものだった」との認識と、自己に内在する意識を冷静に分析する洞察力には驚嘆するばかり。この小説は、例えば老練な作家が書いたとしても後世に残っただろう。2014/11/08
青蓮
120
タイトルに惹かれて読みました。表題作他、戯曲「ペリカン家の人々」、コント「ドニーズ」を収録。圧倒的に惹き込まれのはやはり表題作だろう。16歳の少年と19歳の人妻との恋愛悲劇を描いた本作は、ラディゲが16〜18歳の時に書かれたものらしく、その完成度の高さに驚きました。「僕」とマルトの、激しい熱量で渦巻く愛憎は破滅へと向かっていく。そこで生まれる様々な複雑な感情をラディゲは鋭く抉りだし、巧みに描写する。また、格言とも言えるような文章も随所に織り込まれていて、彼の教養の高さを感じました。2017/12/28
mukimi
119
驚異の17歳で執筆された自伝的不倫小説。暴走する肉欲ではなく緻密な人間心理分析に主眼を置いた筆者の冷静さに凄味を感じる。例えば不倫に身を焦がす理由。背徳感・罪悪感により愛の表出は増強され、一見他では得られない大きな愛として相手に届き、二人の間で雪だるま式に膨張する。「夫と幸せになるよりあなたと不幸になる方がまし」という言葉の中にある非難、自己憐憫という甘美な苦痛。我々は平穏無事な生活が永遠に続くことを本当に望んでいますか。禁断の愛が無くなることはない理由を知らしめられ、ドキッとして、ヒヤッとした。2020/12/29
匠
103
16歳の少年が婚約者のいる年上の女性と恋に堕ちるが、彼女は少年と別れぬまま婚約者と結婚し、夫は第一次世界大戦の戦地へ。そして起きる悲劇。ありふれすぎた内容だが、これを著者ラディゲは16~18歳の頃に書き20歳で亡くなったという。これをもし大人が思春期を思い出しながら書いたとしたら、記憶をどこかで美化し、過去の自分をカッコよく脚色してしまいそうだが、身勝手で残酷で幼稚な少年の思考がそのまま赤裸々に綴られていたのは新鮮だった。でもこの恋には全く共感できず、不愉快だけが残った。そして翻訳がとても読みにくかった。2013/09/05
マエダ
96
この作品はラディゲが16〜18の時に書いたとされる。早熟な天才児と言われることを迷惑がっていたというがその通りだからしかたない。恋愛小説もここまでクレイジーで陰翳にされると面白い。2016/12/15