内容説明
アイルランドの首都ダブリン、この地に生れた世界的作家ジョイスが、「半身不随もしくは中風」と呼んだ20世紀初頭の都市。その「魂」を、恋心と性欲の芽生える少年、酒びたりの父親、下宿屋のやり手女将など、そこに住まうダブリナーたちを通して描いた15編。最後の大作『フィネガンズ・ウェイク』の訳者が、そこからこの各編を逆照射して日本語にした画期的新訳。
著者等紹介
ジョイス,ジェイムズ[ジョイス,ジェイムズ][Joyce,James]
1882‐1941。アイルランドのダブリンに生れ、ヨーロッパを転々としながら「沈黙・流浪・狡猾」の姿勢で創作活動を続け、20世紀最大の作家の一人となる。意識の流れ、神話的方法、音楽的技法、パロディ、造語など、言語の可能性をとことん追求し、実現した
柳瀬尚紀[ヤナセナオキ]
1943(昭和18)年北海道根室生れ。早稲田大学大学院博士課程修了。’91(平成3)年大学教師を辞職し、翻訳執筆活動に専念。翻訳不可能と言われたジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を’93年に完訳(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
118
ダブリンの人々の様々な一面を描いた短編集。表紙のように、全体に陰鬱な雰囲気が漂っている。青空の下で行われる豪華なカーレースでさえも。しかし、暗くはないのだ。死を描いていても、死者は彼らと共にある。各短編の前にあるダブリンの写真が街や人への理解を深める。 「出会い」が一番好き。少年の強がりと心細さと、ホッとする気持ちは、万国共通だとしても、この響いてくる感じがジョイスなのかもしれない。英文を読んでから和訳を読んだ。2016/04/01
ずっきん
82
柴田訳の「アラビー」「エブリン」を読んでジョイスすげええ!と手に取った本書。まあ、正直いって手こずりました。中盤の「土くれ」からは、他の翻訳も探し、原書も拾い読みながら、ついでにオペラの歌詞や解説なんかもググりつつ、一遍ずつ、じっくりと読んでいくスタイル。どうしてそうまでして読んだのかといえば、面白かったからとしか言いようがない。一文で浮かび上がる心情、一瞬で広がる情景。そして、その移ろいがたまらない。ドラマチックでリリカルな「死せるものたち」の最後では魂が抜けそうになった。ユリシーズもいくかどうか悩む。2020/05/25
らぱん
65
切り取られた断面のような15編がひとつの大きな群像劇となり20世紀初頭のダブリンという街が浮かび上がってくる。 それぞれの断片は勝手な音を出し勝手に始まり勝手に終わるのだが、不協和音が集合して全体としては協和する不思議な交響曲のようだ。 訳者が苦心したようだが、階層差なのか方言なのか奇妙な言い回しがところどころに挟まり、つっかえるようなその表現が滑稽でもありアクセントとなっている。最終章「死せるものたち」が印象深く、やや長めで物語の調子も変わるのだが、そのもの悲しさがいつまでも残響している。↓2020/03/03
syaori
61
ダブリンの情景とダブリン市民の生活がスケッチのように絵巻物のように連なる短編集。お悔やみに行った家で一瞬、死者の気配に耳をすます『姉妹』から、「一人、また一人と、皆が影になっていくのだ」と思う『死せる者たち』まで、「恍惚の瞬間」や「生の瞬間瞬間」を描きながらも閉塞感や死と孤独の影が濃く、自分の生まれ育った都市や人生への作者の愛憎と自虐の入り混じる複雑な思いが感じられるよう。今の生活から離れようとしてできない『エヴリン』、ハロウィーンの情景を切り取る『土くれ』、そして掉尾を飾る『死せる者たち』がとても好き。2019/08/23
巨峰
60
ふわふわと本質を掴めないまま読了した感じ。最初の方は面白いと思った短編もあったんだけど、苦しみながら読み終えたwこの小説は日本に暮らす日本人が理解するのは、相当ハードルが高いんじゃないでしょうか。これが20世紀を代表する文学なのか、、、、、2017/07/01