内容説明
農奴解放前後の、古い貴族的文化と新しい民主的文化の思想的相剋を描き、そこに新時代への曙光を見いださんとしたロシア文学の古典。著者は、若き主人公バザーロフに“ニヒリスト”なる新語を与えて嵐のような反響をまきおこしたが、いっさいの古い道徳、宗教を否定し、破壊を建設の第一歩とするこのバザーロフの中に、当時の急進的インテリゲンチャの姿が芸術的に定着されている。
著者等紹介
ツルゲーネフ[ツルゲーネフ] [Тургенев,Иван Сергеевич]
1818‐1883。ロシア中部の大地主の家に生れ、母の領地スパスコエ・ルトビーノボ村で育つ。モスクワ大学、ペテルブルグ大学に学び、ベルリン大学に留学する。1843年に発表した長詩『パラーシャ』が激賞され、農奴体制下の農民の生活を描いた短編集『猟人日記』(’47‐’52)で不動の名声を得る
工藤精一郎[クドウセイイチロウ]
1922‐2008。福島生れ。ハルビン学院卒。日ソ文化交流機関講師、関西大学教授等を歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
401
1860年代、ロシアの2組の父と子を描く。ロシア革命の半世紀前である。時あたかも農奴が解放されようとし、新しい時代の波がうねっていた。ニコライとアルカージーの父子は世代間の断絶を思わせながらも、ニヒリストであったはずのアルカージーも結局は「リベラルな若旦那」としての道を歩む。あたかもトルストイを思わせるかのような行き方だ。一方、地主でもなく農民でもない新しい階級のバザーロフはアナーキストであり(文中ではニヒリストとされる)、革命への予兆を秘めていたのである。温和なリベラリズムにおいてはトルストイ⇒ 2019/03/17
まふ
118
ロシアの農奴解放令(1861年3月)直後の1862年2月に発表された作品で作者の代表作の一つ。「ニヒリスト」と自称する若手医師バザーロフの唯物論的な思想はこの当時まだ社会の大きな力とはならず、周囲に様々な波紋を残しつつも本人は伝染病死してしまう。にもかかわらず独身貴族パーヴェルとの決闘およびその結果はこの時代の対立を象徴しているように見えて興味深かった。純情なアルカージイ、その両親をはじめ登場人物がバランスよく書けてあり、全体的に読みやすく名作の名に恥じぬ作品となっていた。G1000。2023/07/11
NAO
86
農奴解放が行われた時代を社会的背景に、二組の親子像が描かれ、父の時代と息子の時代との差が描かれている。雑階級出身者の代表として描かれているバザーロフだが、ニヒリストにしては愛情が豊かすぎるし、農夫たちに比べれば医者という優位な位置にあるため、貴族主義を族批判する彼自身も、農夫たちのような最下層の者たちからすれば「偉そうな人たち」と同じだということに彼は気づいていない。それでも、貴族社会が揺らぎ、新しい時代を迎えていくにあたって、こういった雑階級の人物たちの登場が必要だった、とツルゲーネフは言っているのだ。2019/06/27
のっち♬
78
二組の父子の対話を通して農奴解放前後、旧貴族的思想と新民主的思想の対立を鮮烈に描いた代表作。「そんな論理が我々になんで必要なのです?」元来善良な人でも他者を全く受け入れないというのは、一見その思想が論理的に正しかろうが幸福にはならない。著者は大変温かみのある筆致で登場人物を愛しみながら見守り、決して長くない分量の中に当時の知識人の内面や葛藤、恋愛模様、成長、それらを取り囲む自然や社会、世代間の軋轢と愛を見事に描いている。これぞ人間の営み。「あと二十年もすれば、お前たちの術も古臭いと言われるようになるさ」2019/11/01
みっぴー
49
ツルゲーネフは、これからのロシアに必要なのは、バザーロフのような知識を持った平民であると確信していた、と解説にあるのですが、私はもう時代背景とか社会情勢とか全く気にせず、タイトル通り『父と子』の物語を、純粋な物語として読みました。バザーロフのような息子を持つと、苦労するだろうな…バザーロフの父が「息子が怖い」と言っていた気持ちが凄く分かります。自分より優れた人間になるであろう息子に抱く愛情、怖れ、期待。帰省を楽しみにする反面、また出ていってしまう時を思って震えながら過ごす老夫妻。親子間の感情って複雑です。2017/06/16