出版社内容情報
いまこそドストエフスキーを読め! 佐藤優氏絶賛。『カラマーゾフの兄弟』に先立つ円熟期の名作。
知識人の貴族ヴェルシーロフは、一家の主でありながら、「宿命の女性」アフマーコワへの情熱に駆られ破滅への道をひた走る。いっぽう彼と使用人の間に生れた私生児アルカージイは、日陰の生立ちのため世を憤り、富と権力を得ることを求めながら、父の愛を渇望する。ロシア社会の混乱を背景に、信仰と不信、地上的恋と天上的愛に引き裂かれる人間像を描くドストエフスキー円熟期の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
130
貴族と農奴の私生児アルカージイは富と権力に憧れる一方で、父の愛を渇望する。『悪霊』に続き今作も不気味な存在感のあるニヒリストが登場。天上的善美と地上的欲望の狭間で痙攣しながら引き裂かれてゆくヴェルシーロフの姿は、著者が無神論を突き詰めた結果が反映されていると言えよう。思い込みの強い『未成年』な主人公の語りに加えて、人物や挿話も氾濫気味で物語の見通しが良くないが、複雑に屈折した彼の激しい葛藤は著者だからこそ表現できる痛々しさ。本書は「自分の事」を整理しながら「中庸と無感覚の時代」を考究する彼の新たな試みだ。2018/11/24
syaori
77
『悪霊』と『カラマーゾフ』の間に書かれた長編。貴族の私生子アルカージイの手記の形で物語が進みます。彼は「捨てられたみたいに」孤独に、一度会ったきりの父を憧憬しながら育った青年で、物語開幕直前に家族の元に来た彼の目を通し、彼の父を巡る人間模様が語られます。ただ彼が事情を「知らなすぎる」ため、展開されるのは憶測と疑問ばかり。そのうえ父に関係する人物の「重大な文書」を持つ彼は、自意識の高さと人生の経験の少なさから、何も見えていないまま周囲の人々の思惑に絡まっていってしまうので興味も緊張感も高まるばかり。下巻へ。2023/08/22
aika
60
今まで読んできたドストエフスキーの作品とは少しテイストが違って、不思議な感じがしました。私生児として生まれたアルカージィは、自分の理想を達成したいのに、実の父ヴェルシーロフをはじめとした人間関係に揺れて思い悩んだり、あれよこれよと動き回る様子が目まぐるしいです。父の愛を欲しているのに、どこか素直になれないところも、タイトルのとおり、未成年らしい青さを思わせます。最後の場面で、妹リーザに思わぬ事態が発覚したので、下巻からは楽しみです。2017/10/14
市太郎
54
主人公アルカージイの手記・回想といった形で物語は進む。主人公はロスチャイルドのような富豪になることに憧れ、乞食のような生活をしながら金を貯めようという野望の持ち主。その父も家庭もちでありながら色恋沙汰の噂が絶えない善か悪かよくわからない、という人物。複雑な関係の父子が中心となる。ドストエフスキーの五大長編の中でとりわけ評価が低いと言われる本作。確かに他作品のようなインパクトこそないけど、評価が気にならないくらい面白い心理小説的な物語だと思う。何気に主人公の愛憎入り混じる心理に共感してしまうのだが。下巻へ。2013/12/02
ころこ
50
本作の評価が低いのは、一人称のため長編の割には世界観が安定せず、思想的な強度が低いからだと思いました。一人称といえば『地下室の手記』ですが、ルサンチマン的な情念にはその思想性に合った長さがあることを示しています。あまりに長いとルサンチマンは勢いを削がれて行き先を失い、他方で一人称であるためポリフォニー的な他者の存在もいつまで経っても現われないため作品世界に奥行きをつくれない。小説は独創性を生む一方で、典型的な人間を描くことで読者に共感を呼びますが、典型が無いことでその人物に相応しい教訓が無いというのがドス2022/04/22