内容説明
複雑な家庭環境の中、これまで会わずに育った「兄妹」が出会った瞬間から恋を育む―。互いに愛する人を失った男女が出会い、やがて何かに導かれるようにして寄り添ってゆく―。運命的な出会いと恋、そこから生まれる希望や光を、瑞々しく、静謐に描き、せつなさとかなしい甘さが心をうつ珠玉の中編二作品。明るさのさしこむ未来を祈る物語。定本決定版。
著者等紹介
吉本ばなな[ヨシモトバナナ]
1964(昭和39)年、東京生れ。日本大学芸術学部文芸学科卒。’87年「キッチン」で「海燕」新人文学賞、’88年単行本『キッチン』で泉鏡花文学賞、’89(平成元)年『TUGUMI』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞。海外での評価も高く、イタリアのスカンノ賞、フェンディッシメ文学賞を受賞。『アムリタ(上・下)』(紫式部文学賞)など著書多数
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
184
こちらの作品も高校生以来、二十数年ぶりの再読で、さすがにブランクがそれだけ空いていると初読みに近い感覚で読むことができました。あとがきで作者さん本人が‘失敗’と書いてますが、ばななさんには珍しい男性目線の『サンクチュアリ』はなかなか新鮮で、今ではおそらく味わうコトのできないばななさんワールドを楽しませていただきました。刊行が’88年と27年ほど前の作品なので、随所にばななさんの‘若さ’を垣間見る(読む)コトができます。ある意味、ばななさんには珍しいスパッとした作風で描かれており、こんな作風もありかなと。2015/06/28
ヴェネツィア
167
よしもとばななの作品も、行き当たりばったりに読んでいるものだから、20作目にして、ようやくここに。「うたかた」は、第99回芥川賞の候補になりながら、取れなかった作品(ちなみに受賞作は新井満の『尋ね人の時間』)。本書は「キッチン」で瑞々しい感性をはじけさせた、ばななの2作目だが、「急行は夜を急ぐ」といったような斬新な表現があるかと思えば、「くさいポーズをしてそう言った」などと妙に通俗的な表現が混在していたりもする。まあ、自然体で書いているのだと言えばそうなのだし、そこにばななの小説の魅力もあるのだけれど。2012/09/23
コージー
77
★★★★★近くて、遠い恋。失い、また出会う恋。そんな大人の恋を描く2つの作品。あとがきに、ばななさんが、自分が考えた作品ではない気がすると書いてあったが、私はらしさがあったと思う。単なる駆られる恋ではない。死が身近に横たわり、白黒の夢の中の映像をぼんやり見ているような、そんな儚さがただよう。これが母胎にいるようで、とても心地いい。【印象的な言葉】①ああ、つらかった。離れてきてこその幸せって、あるのかもしれないわね。②幸せっていうのはな、死ぬまで走り続けることなんだぞ。2018/10/11
masa
71
文庫版はあとがきの威力が凄すぎて、読んだら何も書けなくなってしまうじゃないか。やはり小説家は自分の物語を回想すべきではないなと思ってしまう。ある小説家が自分の作品は読み返さないし忘れてしまうととぼけるのは、マナーなのだなと思ったりする。勿論、それに反して著作者の本音を読みたい気持ちもあって悩ましいところだけれど。著者の作品は人がとてもよく亡くなる。唐突に特別感ない死が哀しませる余裕を与えず、妙にリアルだったりする。そこから時間をかけて哀しみを理解し受け容れることで回復していく強さと優しさが共通した魅力だ。2022/03/12
みう
67
『うたかた』このことばの響きがいい。ばななさんの瑞々しい感性が、ほとんどすべてのページで光ってる。「幸せっていうのはな、死ぬまで走り続けることなんだぞ。それに家族はどこにいてもひとつだけど、人は死ぬまでひとりだ。」/『サンクチュアリ』季節の中に物語が綺麗に溶け込んでいる。寒くて長い冬を越え、心に春風が吹きこむような恋のはじまり。「はたから見てそれがありふれた恋のはじまりであっても、確かに奇跡だった。」/ ばななさんはあとがきで本作を失敗だと語っているけれど、私は大好きな作品です。2006/12/10