内容説明
サイパンの心地よい生活、そして霊的な体験。親しんだバイトとの別れ。新しいバイトの始まり。記憶は戻り、恋人は帰国し、弟は家を出る。そして新たな友人たちとの出会い―。生と死、出会いと別れ、幸福と孤独、その両極とその間で揺れ動く人々を、日々の瞬間瞬間にみつけるきらめきを、美しさを、力強く繊細に描き出した、懐かしく、いとおしい金色の物語。定本決定版。
著者等紹介
吉本ばなな[ヨシモトバナナ]
1964(昭和39)年、東京生れ。日本大学芸術学部文芸学科卒。’87年「キッチン」で「海燕」新人文学賞、’88年単行本『キッチン』で泉鏡花文学賞、’89(平成元)年『TUGUMI』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞。海外での評価も高く、イタリアのスカンノ賞、フェンディッシメ文学賞を受賞。『アムリタ(上・下)』(紫式部文学賞)など著書多数
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
139
私の中でばななさんの本は、どこまでも感覚的に読む本で、彼女の世界に感覚が開いている時は言葉がすーっと入ってきて心に沁みていくんだけれど、感覚が合わない時は物語に入っていけなくて損をした気分になってしまう。 本書は、させ子さんや弟やユウマさんの突き抜けて霊的な能力に対して、どうにも心が閉じてしまっていて、上巻を読んでしばらく放置してしまった。 最近の暴力的な程の太陽が私の心を開いてくれて、ほんの少しだけ沁みた。自分には、もっとよくある日常的な本の方が入ってきやすいかな。 海に行きたくなる本。2018/06/05
ヴェネツィア
116
下巻では、きしめんとメスマ氏という、さらに新たな超能力者が登場し、その一方で疑似家族は解体してゆく。上巻でもそうだったのだが、この小説は描かれる情景も、そこで展開する事柄も、そして登場人物たちの感情も、それらのすべてが語り手の視点から常に距離があり、何か遠い。メスマ氏が朔美を評して「別れも出あいも、過ぎて行くだけで見ていることしかできない」と語っている。また、小説全体に中産階級的な限界が感じられもする。そのことは読者の共感にも繋がるのだが、しかし、同時に作家自身でそれを突き破っていく必要があったのだろう。2012/11/09
風眠
110
(再読)「人生は旅だ」なんて表現はかなり恥ずかしい。でも何年かぶりに上下巻を通して読んでみて、人生ってやっぱり旅みたいなものかもしれないと思う。何も無い日常は奇跡の連続のようなもので、生きていれば何も無いなんてありえない。それでも食べて眠って、神様の水(アムリタ)をごくごく飲みながら生きていく。身の上に起こる様々な事を一時的な旅のように捉えてやりすごす。そんな日常を積み重ねた先に人生がある。自分の体の声に耳を傾ける事、複雑に考えすぎない事。そう、シンプルでいいのだ。それがきっといちばんの癒しなのだから。2015/07/18
ゴンゾウ@新潮部
101
出会いと別れ、生と死、現在と過去、日常と非日常、幸福と孤独両極端の間で揺れ動きながら人は生きている。黙っていても時間は過ぎていく。あまり深刻に考えずにその時その時を受け入れながら大切に生きて行く。アムリタのようにジワジワと生きる力をもらった。2016/03/31
naoっぴ
92
「生きていくっていうことは、ごくごくと水を飲むようなもの」とても素敵な言葉だと思いました。不味くて飲みたくないときもあるけど後から思えば間違いなく自分のエネルギー源となっている。どんな日常も無駄はなく、人生ってそんな毎日で作られていくんだなぁと。ばななさんの小説では心の描写が鋭くてすごいなぁと感じます。ある程度の山と谷の人生経験を経た今だからこそ、読めて良かった作品。一日一日、大切に生きようと思える。若い頃に読んでもこの感覚はきっとわからなかった。また読み返したい大切な本です。2017/01/17