内容説明
妹の死。頭を打ち、失った私の記憶。弟に訪れる不思議なきざし。そして妹の恋人との恋―。流されそうになる出来事の中で、かつての自分を取り戻せないまま高知に旅をし、さらにはサイパンへ。旅の時間を過ごしながら「半分死んでいる」私はすべてをみつめ、全身で生きることを、幸福を、感じとっていく。懐かしく、いとおしい金色の物語。吉本ばななの記念碑的長編。
著者等紹介
吉本ばなな[ヨシモトバナナ]
1964(昭和39)年、東京生れ。日本大学芸術学部文芸学科卒。’87年「キッチン」で「海燕」新人文学賞、’88年単行本『キッチン』で泉鏡花文学賞、’89(平成元)年『TUGUMI』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞。海外での評価も高く、イタリアのスカンノ賞、フェンディッシメ文学賞を受賞。『アムリタ(上・下)』(紫式部文学賞)など著書多数
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
116
この小説にはUFOも霊も予知夢もが、ごく当たり前のように登場してくる。こうした日常と非日常との混在は、例えば小川洋子の世界なら、いつの間にか非日常の側に傾斜していくし、また川上弘美の世界では奇妙な均衡を保ったままで共存する。ところが、よしもとばななの世界は日常のキャパシティが大きいのか、これらの通常は日常ではないものが、それほどの違和感もなくすっぽりと日常の中におさまったままでで語られるのだ。そして、ここでは近縁者の死も、物語の語り手である「私」自身の半分の死もまた等距離にあるかのようだ。2012/11/08
風眠
102
(再読)理屈で考えられるほど頭がクリアではない時、特別に思い当たる事はないけれど、迷っているような時。何となく自分がぼんやりしてしているな、カラ元気のような、そうでもないような。そんな風に自分の気持ちが曖昧になっている時、吉本ばななは沁みる。頭を打ち、記憶を失った朔美。取り戻せそうで取り戻せない記憶。心を病み自殺した妹。妹の元恋人で小説家で旅人の竜一郎。霊感のような不思議な能力に目覚めた小学生の弟。日常からほんの少し外れた場所から聴こえてくる小さな歌に誘われるように、私も朔美と一緒に旅をしたような上巻。2015/07/18
ゴンゾウ@新潮部
100
特にこれというものがある訳ではないんだけど、読んでいてとても居心地がよい空間がある。肩肘張らずに自然体で生きている。妹の死、母のこと、妹の元カレ、弟のことをあくまでも自然体で受け止める。2016/03/30
naoっぴ
88
素敵な話!何気なく紡がれていく出来事の一つ一つから、日常の中には宝物が詰まっていることを思い出させてもらいました。例えば美しい夕焼けをみて今日という日が一日しかないと瞬時に気づくとか、ばななさんならではの繊細で美しい表現で、形がなくてうまく言葉にもできないけれど大切ななにかを、大きな話の流れのなかで感じさせてくれます。経験していなくてもどこかで信じていること、生と死、魂の存在、幸せのありかなど、心の奥にしまいこんでいることに「あ!」と気づく心地よさ、このヒーリング、やめられません!下巻へ。2017/01/14
優希
60
懐かしい香りが漂ってくるようでした。物語が愛おしく輝いていました。妹の死や記憶を失った朔美、弟に差し込む不思議な兆しが何とも言えませんそして妹の恋人との恋。時間は流れる水のように心に流れ込んできます。自分を取り戻せない朔美は高知、サイパンへとたゆたうのはまさに時間の流れでしょう。生きることの幸せや喜びがこの作品には詰まっているような気がします。胸に染み入る切なさが何とも言えずじんわりきました。2014/09/09