出版社内容情報
本郷の下宿屋から青森の旧家へと流されてゆく晴子。ここに昭和がある。あなたが体験すべき物語がある。『冷血』へ繋がる圧倒的長篇。
両親を失った晴子は福澤家で奉公を始める。三男二女を擁する富と権力の家――その血脈は濁っていた。やがて運命に導かれるように、末弟たる異端児淳三と結婚する。一方、母の告白により出生の秘密を知った彰之は、苛酷な漁に従事しながら、自らを東京の最高学府から凍てつく北の海にまで運んだ過去を反芻する。旅の終りに母子が観た風景とは。小説の醍醐味、その全てがここにある。
内容説明
両親を失った晴子は福澤家で奉公を始める。三男二女を擁する富と権力の家―その血脈は濁っていた。やがて運命に導かれるように、末弟たる異端児淳三と結婚する。一方、母の告白により出生の秘密を知った彰之は、苛酷な漁に従事しながら、自らを東京の最高学府から凍てつく北の海にまで運んだ過去を反芻する。旅の終りに母子が観た風景とは。小説の醍醐味、その全てがここにある。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
388
難渋しつつも読了。読後はなんとも寂寥感に満ちた感覚に捉えられることになる。晴子と彰之のそれぞれが抱える孤独は、荒涼たる荒野を吹きすさぶ寒風のようだ。晴子が書き続ける手紙は、彰之に向けたものでありつつも、実態は晴子自身の自己省察の語りであっただろう。作家の側からすれば、その時代を「書く」ことによって生き直す(それ自体が虚構なのだが)営為に他ならなかった。一方、彰之の思いが語られることはない。北の海にあって、その寡黙が語る語るものは何だったのだろうか。2020/05/19
KAZOO
117
高村さんが本当に書きたかったことなのでしょう。いままでの作品を読んできた方には肩透かしかもしれません。母親が息子にあてた手紙と最高学府を出たものの漁労員になっている息子の生き方がフラッシュバックのように交互に語られますが大きな事件らしい事件はありません。母親がその両親の生きざまを語り、あるいは自分の生涯を語り、また息子がそれまでに生きてきた時代を語ることにより大正昭和の時代を俯瞰しているような感じがしました。私はこの息子の年と近いので非常に興味を持って読むことができました。福澤サーガですね。2023/01/03
レアル
76
美しく重厚感があり格調高い文章。旧かな使いの美しい日本語。同じ情景でも今の現代語では表現できない美しさがそこにある。事件が起こって云々という話でもなく、エンタメとしての面白みがある訳でもなく、ただ単なる家族の話なんだが、こういう作風と物語が好き。高村氏の作品の中でも上位に入る作品になりそう。。上巻同様淡白な文章で最後まで書き終えたこの物語。高村氏は良い!次は「新リア王」を読む。2015/05/27
NAO
61
時代に翻弄される女性、東北地方という辺鄙な地に暮らす人びとの生活の暗さ、福澤家という何とも得体の知れない旧家の奥底に潜んでいるもの。晴子の手紙の饒舌すぎる語りに対し、彰之の段は、夢の中なのか、思い出にふけっているのか、現実のことなのかよく分からないような混沌とした意識の流れの描写が続く。最高学府を出ながら、陸からはるか離れた漁船の中、荒波にもまれ力仕事に身体を痛めつけて、それでも確固たる信念を持てないまま、日々鬱々と懊悩し続けるしかない彰之の姿の痛ましさこそが、福澤家が抱える闇であり、時代の闇なのだろう。2017/08/23
優希
40
晴子の生き方。それが手紙となり伝わってくる。手紙を通じて考えられるあらゆる風景が絡み合うのが、骨太で硬質な文章で語られるのにのめり込みました。逞しく聡明な女性の一代記として読むと凄く面白いですね。2024/03/11