内容説明
〈トロイ計画〉の鍵を握るマイクロフィルムを島田は入手した。CIA・KGB・北朝鮮情報部・日本公安警察…4国の諜報機関の駆け引きが苛烈さを増す中、彼は追い詰められてゆく。最後の頼みの取引も失敗した今、彼と日野は、プランなき「原発襲撃」へ動きだした―。完璧な防御網を突破して、現代の神殿の奥深く、静かに燃えるプロメテウスの火を、彼らは解き放つことができるか。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
367
下巻は上巻にまして、圧倒的な迫真力とスピードである。そして、彫琢された細部がリアリティを保証する。全篇を通じて何という孤独感と漂泊感であろうか。島田も日野も、江口もまたそうだ。本編は現行の政治と社会に対する、痛烈なプロテストだ。そして、それに対する個の哀しみを表現した稀有な小説である。ヨハネの黙示録「もう死ぬことはなく、悲しみ、叫び、苦しみもない」がなんと心に響くことか。この作品は高村薫の一つの到達点を示すものだろう。唯一不満なのは終結部なのだが、それもまたクールなニヒリズムとして呆然と受け止めたい。2018/03/01
ゴンゾウ@新潮部
127
高村さんの緻密さには脱帽ですが専門用語が多くて苦労しました。本当に硬質で隙がない文章です。良の死後目的を失った島田と日野の原発襲撃は悲壮感があり辛かった。2016/04/09
みも
59
魂の解放を描く壮大で痛切な悲哀劇。スパイとしてのその生き様は【空洞】表出する外貌は全て【カムフラージュ】島田は良を救う義務を自らに課す事で、抑圧された過去を解放したかったのか。原発の脆弱性が露呈した現在だから僕にも理解し得るが、執筆当時は安全神話が世間を跋扈していた時代。時代の先見性に加え妥協のない専門性の細密さやストーリー構成に於いて、卓越した作品である事は疑問の余地は無く、著者の蓄積された知見の膨大さには驚愕するのみ。ただ現認記述が克明すぎて辟易する読者も多数ありそうで、作品の質が読者を選ぶのは残念。2018/01/20
NAO
55
再読。日本はスパイ天国だと言われているが、高村薫の作品を読んでいると、空恐ろしくなることがある。原子力の火というあまりにも不安的なものを頼りすぎている日本人の甘さにも。良が死んだことで目的を失ってしまった島田と日野が原発襲撃に向かうのは、原発は襲撃しようと思えばできるのだとシュミレーションしてみせることで原発の乱立を批判しているのだとは思うが、島田と日野の原発襲撃の動機には少し無理を感じた。破滅的な人間に常識など通じないのは分かってはいるのだが。高村薫は、どうしてこうも破滅的な人間を描き続けるのだろう。2016/06/14
Tetchy
49
これほど緻密な説明や描写、血肉の通ったキャラクターを用意してもその内容はというと、首を傾げざるを得ない。結局原発襲撃は男二人の我侭による壮大な悪戯に過ぎないし、そのために犠牲になった各機関や人生を破滅させられるであろう登場人物が出る事を考えると簡単にこの小説に同意できない。しかも島田や日野の最期は前作『黄金を抱いて飛べ』の主人公らと似通っているしで、同じストーリーを設定と手順と情報量を多くしたに過ぎないのでは?と勘繰ってしまう。しかし力の抜きどころのない作品だなぁ。2009/10/14