出版社内容情報
水村美苗[ミスムラ ミナエ]
著・文・その他
内容説明
生涯の恋に破れ、陰惨なまなざしのままアメリカに渡った東太郎。再び日本に現れた時には大富豪となっていた彼の出現で、よう子の、そして三枝家の、絵のように美しく完結した平穏な日々が少しずつひずんで行く。その様を淡々と語る冨美子との邂逅も、祐介にとってはもはや運命だったような…。数十年にわたる想いが帰結する、悲劇の日。静かで深い感動が心を満たす超恋愛小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
442
実に充実した時間だった。それはまさに「本格小説」に耽溺する時間であった。読み終わって、あらためて小説の構造を振り返ってみると、小説内の時間は周到に計画され、構成されていたことがわかる。祐介は漱石の「こころ」の「私」と同じように目撃者であり、追体験者である。そして、私たち読者の視点もまた彼のそれである。裕介が軽井沢にいたのは、わずか1週間であったが、それが彼の人生そのものを根底から変えた。読者であった私たちの世界は変わっただろうか。少なくても、この小説に耽溺している間は、私たちもまた確実に軽井沢にいた。2020/11/21
ミホ
53
読んだ後すぐ感想記入になれない余韻。感想で全ては表しきれないですね。出会いや別れ、節々の愛憎のぶつかりが今尚残ります。泣いたし。主軸の人物の関係は不変であり、でもそれを幸せだと言って泣いた彼女も求め泣いた彼らも切ないし悲しい。そして長い物語に浸かった後にあのあとがきで目が覚めるという。再読ですね。事を知ってしまった私も初読で読んだ私ではないので同じ気持ちで読むことはできないだろう。タイトルも相応しく、内容にがっちり嵌り込みました。2015/06/14
キムチ27
48
思えば、淡々とした上⇒打って変る渦中の下巻。面白かった。骨組みを「嵐が丘」とし 軽井沢を舞台に 私小説プラス虚構と言った設定で練り上げた構想。この点が本格と言わしめるのか。隣人の優雅な三姉妹の生活が軽やかに描かれ、浮世の現実を忘れさせてくれる雰囲気はなかなか、愉しめた。ちらっと筆者が登場したり祐介、冨美子、東太郎を語らせている点で読み手は「今、何を語って、どんな立ち位置?」とちょっと足元が揺らぐ。
TATA
48
水村さん初読み。重厚で骨太な恋愛小説とでもいえば良いのか。戦後の歴史をなぞりながら決して結ばれることのない恋愛模様を描いていく。よう子にも太郎にも感情移入することはできず、決してハッピーエンドではないのだけれど、この結末しかあり得ないんだろうと感じるものだった。一体人にとっては何が幸せなのだろうかと、読後、妙な空虚感が残る。2021/06/06
いちねんせい
48
読み終えたくなくて読み終えたくなくて、最後は頁をめくる手の動きもかなり遅くなった。読み終えたのは先月後半だったけど、感想を書くのを忘れてあの物語の世界に浸っていた。ぐったりしていた。水村さんの本を読むと、いつもその世界に引っ張られて行ってなかなか帰ってこられない。今回もまだ帰ってこられたのかどうかわからないままだ。そして、次は水村さんのお母さんが書いた本と東太郎のモデルとなったと言われている人の自伝を読もうとしている。2020/09/20